ビジネス
2013年12月20日
マクドナルド原田泳幸が伝えたい「最も困難な仕事に挑め!」
[連載] バトンタッチ ~若きビジネスパーソンへ伝えたいこと【1】
文・原田泳幸(日本マクドナルド会長)
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アップルとマクドナルドの業績をV字回復させた原田泳幸氏。日本を代表する経営者が、若き自身の経験から、現代の若きビジネスパーソンへ向けて金言を送る。リーダーの在り方や役割、そのために20・30代でやっておくべきこと、目から鱗のビジネスヒントがここに。


一番難しい仕事をさせてください!


原田泳幸 氏(日本マクドナルドホールディングス株式会社代表取締役会長兼社長兼CEO)

 若いサラリーマンと話をすると、「原田さんのようになるには、これからどうやってキャリアを歩んでいけばいいですか?」と質問されることがある。あるいは、「どうしたら社長になれますか?」とも。

そんなとき、私が答えることはいつも同じ、ただ「がむしゃらに働いてほしい」である。この先数十年のキャリアプランなど、事細かに考えても意味がない。それよりも、目の前の仕事にベストを尽くす。キャリアとは、その実績が認められた結果として上から降ってくるものなのだから。

 私自身、社長になりたいと思ったことは一度もない。私の原動力はただ1つ、それまでやったことのない「新しい仕事」への情熱だ。40代でアップル(日本法人)の社長、50代で日本マクドナルドの社長になったのも、その延長線上にあったに過ぎない。

 私は20代の多くを日本NCRという会社で過ごした。入社してすぐにエンジニアとして開発部門に配属されたのだが、当初は簡単なプロジェクトしか回してもらえず、不満を募らせていた。だから、上司にしつこく「一番難しい仕事をさせてください!」と言っていた。

 エンジニアの仕事というのは、日々無数の壁にぶつかり、解けないパズルを解くような無理難題をふっかけられる。理不尽なスケジュール、理不尽なコスト、理不尽な仕様......。しかも、エンジニアとは論理的にものを考える人間であるため、そのプロジェクトが実現可能かどうか、理屈できっちり説明できてしまう。これは辛い。

 だが同時に不可能なことを実現するのが、エンジニアとしての仕事の醍醐味でもある。ならば、どうするか。答えは至ってシンプル。考えて、考えて、考え抜く。とことんもがき苦しむしかない。その葛藤の末に、それまでの常識にとらわれないアイデアが生まれ、自分が一回り大きくなったことを実感する。私の20代はその繰り返しだった。

 若さに任せてやり過ぎたこともある。家に帰っても仕事のことを考え続け、夢の中にまで仕事の場面が出てくる。ある年の大晦日、除夜の鐘を聞きながらトイレでひっくり返ってしまったことも(笑)。1年間張り詰めていた気持ちが、ふと緩んだのだろう。

日々ベストを尽くせば必ず人は成長する


 こうして身の丈以上の仕事に食らいつく中で、私は成長してきたのだと思う。60代になった今もそれは変わらない。「そんな苦しいことをどうして続けるのか?」と不思議に感じる人もいるかもしれない。しかし、そこにしかない喜びが確かにある。簡単な仕事のどこに喜びがあるのか? 困難に直面したときこそ、人はすごいエネルギーを生み出す。そして、そこで何とか壁を乗り越えた時の喜びは、何ものにも代え難いと私は思う。

 困難に立ち向かう以上、失敗することも少なからずあるが、それを恐れてはいけない。失敗してもいいのだ。社長の立場から言っても、失敗を恐れてばかりの社員と仕事をしたいとは思わない。若いうちに勇気を持って踏み出さなければ、何もできないまま歳をとっていく。失敗や挫折を経験していない人間は他人の気持ちもわからない。そんな人が将来リーダーを務められるだろうか。

 若い頃は猛烈に知識を吸収できるチャンス。その貴重な時期に躊躇している暇はない。「ただ、がむしゃらであれ!」。繰り返しになるが、これから成長が期待される若手サラリーマンには、そのことを何よりも伝えたい。日々ベストを尽くしてさえいれば、必ず人は成長する。その結果として、キャリアの選択肢も無限に広がっていくことだろう。

(第1回・了)





バトンタッチ
若きビジネスパーソンへ伝えたいこと
原田泳幸 著



【著者】原田 泳幸(はらだ えいこう)
日本マクドナルドホールディングス株式会社代表取締役会長兼社長兼CEO。1948年長崎県生まれ。東海大学工学部を卒業後、日本NCR、横河・ヒューレット・パッカード、シュルンベルジェを経て、1990年にアップルコンピュータジャパンに入社。1997年に同社代表取締役社長兼米本社副社長に就任し、iMacなどの商品を日本でヒットさせる。2004年2月に日本マクドナルドに入社し、7年連続マイナス成長だった同社をV字回復に導く。
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