スキルアップ
2014年2月4日
なぜ「援助」しているのに恨まれるのか
[連載] 「説得」に関わる人間の心理法則【2】
『論理的に説得する技術』より
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論理的な説得には欠かせない、人間の心理法則を紹介する本連載。第2回目は貸しをつくることで得られる「心理的負債感の効果」について紹介します。この効果は、うまく使わないと逆に相手に恨まれることにもなるので、注意が必要です。


貸しをつくり相手の気持ちを動かす─心理的負債感の効果


自分が実際に「借りる」もしくは「もらう」立場に立って考えてみよう

 説得しやすい心理状態をつくる方法の1つに、相手に貸しをつくるという方法があります。いつも親切にしてくれる人がいると、こちらも親切な態度で接したり、ちょっと旅行に行ったからとお土産を渡したりするなど、借りを返そうとする心理が働きます。

 これは「返報性規範」または「互恵性規範」といわれるもので、社会学者グールドナーは、自分が他者から受けたのと同種のものを他者に返すこと、および自分が他者にしたことと同種のものを自分にしてくれるのを他者に期待することというように定義づけています(社会心理学用語辞典、北大路書房より)。

 心理学者ガーゲンによる返報性規範を確認した実験を紹介しましょう。実験協力者にポーカー・ゲームをしてもらい、ポーカー・チップがなくなってしまった人に、ポーカー・チップを以下の3通りのうち、1つの条件を示して貸してあげようと申しでます。その後、相手に対する印象を尋ねました。

 第1条件では「返す必要はない」、第2条件では「後で利子をつけて返してほしい」、第3条件では「後で同じ枚数返してほしい」といってポーカー・チップを貸しだします。ゲーム終了後、ポーカー・チップを貸してくれた相手の印象を尋ねます。その結果、第3条件の「同じ枚数返してほしい」といった人に対する印象がもっともよかったのです。

 返さなくてもいいといわれたほうが得なのに、同じ枚数返すという条件の相手の印象がもっともよいというのはどういうわけでしょうか? そこには、返報性規範が影響しています。

 人は、返さなくてもよいという条件だと、心理的負債感が生じ気持のおさまりが悪くなるのです。一方、借りた以上に返すのは自分が損をして納得できません。借りた分だけ返せば、お互いに損得ゼロになって、気が楽になります。

「もらいっぱなし」だと落ち着かない


「手みやげ」そのものというよりも、相手が「わざわざ自分のためにお金と手間をかけよう」と思ってく れた気持ちをうれしく思う人は多いはず

 発展途上国の国民の中には、先進国から一方的に援助を受けるばかりでお返しができないことが原因で、心理的負債感が発生し、先進国に反感を抱く人もいるといいます。「援助してなぜ恨まれなくてはならないのか」と思うかもしれません。

 でも、援助を受けお返しができない側の立場を想像してみると、お返しができないことは、自分たちに能力がないことを認めることになり、自尊心が傷ついてしまうのではないでしょうか。

 また、たいていの人は見ず知らずの人から大金を援助したいという申しでがあっても、そんな大金を援助してもらうほどの間柄ではないといって断ると思います。どういった形でお返しができるのかという心理が働くから断るのでしょう。これほどまでに、返報性規範は、私たちの無意識下に根づいているようです。

 過度な貸しは反感をかうことになるようですが、適度な貸し借りは、人間関係を円滑にします。説得ということになると、貸しをつくったほうが説得しやすいといえます。貸しをつくるというと、聞こえが悪いのですが、要するに相手のためになにかをしてあげるということです。

 保険業界の営業レディなどは、プレゼントを手に家庭や企業を訪問します。契約の紹介のときだけでなく、ちょっとした物をもってたびたび顔をだすので、嫌みなく心理的負債感をつくっていきます。

 また、部下のミスをフォローしたり、心理的サポートをしようと気を配ってくれる上司は、部下に、恩返しをしたい、期待に応えたいといった気持ちを抱かせるようになります。これも返報性規範の心理によるものです。

 有名な説得のテクニックである「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」のように、最初に無理な提案をして断らせ続けることによって引け目という心理的負債感を負わせ、本当に説得したい内容を最終的に受け入れさせる方法もあります。

(第2回・了)
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論理的に説得する技術
相手を意のままに操る極意
立花 薫 著 榎本博明 監修



【著者】立花 薫(たちばな かおる)
医療・福祉業界勤務を経て、大学・研究所で心理学調査研究に携わる。現在、MP人間科学研究所研究員。著書に『「ゆるく生きたい」若者たち』(廣済堂新書)、『論理的に説得する技術』(サイエンス・アイ新書)がある。

【監修】榎本 博明(えのもとひろあき)
1955年、東京生まれ。東京大学教育心理学科卒業。東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学大学院助教授などを歴任。現在、MP人間科学研究所代表。心理学博士。おもな著書に、『<私>の心理学的探求』(有斐閣)、『「自己」の心理学』(サイエンス社)、『<ほんとうの自分>のつくり方』(講談社現代新書)、『「上から目線」の構造』『「やりたい仕事」病』(日経プレミアシリーズ)、『ビックリするほどよくわかる記憶のふしぎ』(サイエンス・アイ新書)などがある。