カルチャー
2014年3月5日
実は低かった日本のスマホ保有率。世界1位のUAEで見た驚きの使い方
[連載] 住んでみた、わかった! イスラーム世界【1】
文・松原直美
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学生たちに人気の「礼拝時間お知らせ」アプリ


 近代的な生活と古来からの宗教の実践は一見相反するように感じます。しかしUAE人はイスラームの教えを実行するのに、スマホやコンピュータを上手に利用しています。スマホやコンピュータにはイスラーム教徒に便利なアプリケーションが何種類もあるのです。

 ある日の昼下がり、大学内のカフェで女子大学生ラティーファさんとおしゃべりしていたら、彼女のスマホがピピッと鳴り出しました。すると彼女は「礼拝の時間なので、ちょっと失礼します」と言って、大学内にある礼拝所に向かいました。10分後くらいに戻って来たラティーファさんは、「1日5回ある礼拝の時間を教えてくれるアプリをスマホに入れているんですよ」と教えてくれました。それぞれの礼拝時間は太陽の運行に沿って毎日少しずつずれていきます。イスラム教国では街中のモスクから毎日1日5回礼拝の時間を告げる大きな声がスピーカーから流れてくるのでモスクの近くにいれば礼拝時間を確実に知ることができますが、モスクから離れたところにいると、礼拝の時間をうっかり逃してしまうことがあり得ます。そんなとき、「礼拝時間お知らせ機能」のあるアプリをダウンロードしておくととても便利だそうです。

 ただし、授業中に学生たちのスマホがピピッと鳴ったことはありません。礼拝時刻に授業がかさなれば、礼拝よりも授業が優先です。イスラームには「すべての教徒にとって知識を得ることはとても重要なことである」という教えがあるので、UAE人はそれに従い勉学も宗教も大切にしています。

コーランもスマホの中に!


 礼拝はイスラームの聖地であるメッカ(マッカという発音に近い)を向いて行わなければなりません。しかし礼拝する場所は外出先であることも多くいつも同じ場所とは限らないので、外出のたびに方位磁石でマッカの位置を確認するのは大変です。しかしこのわずらわしさを解消してくれるのがマッカの場所を即座に示してくれる方位磁石機能つきアプリです。多くのUAE人がこのアプリをスマホ上で利用しています。

 イスラームの聖典であるコーラン(クルアーンという発音に近い)もスマホやコンピュータにダウンロードできます。コーランは辞書より少し大きく、辞書のように厚いですが、スマホや持ち運びできるコンピュータに聖典をダウンロードしておけば、いつでもどこでも好きな時に読めます。聖典には字がぎっしり詰まっているので「読んでいたら眠くなりそう」と私は思ってしまいましたが、イスラーム教徒はみな「読んでいると心地良くなる」と言います。それぞれの人に自分のお気に入りの文句や章があり、心を静めたいときなどにその箇所を読むそうです。

 UAE人は7世紀に成立した宗教の教えを21世紀の機器を使って実行する、という古代と現代がうまく協調した興味深い生活を送っているのです。

(第1回・了)





住んでみた、わかった! イスラーム世界
目からウロコのドバイ暮らし6年間
松原直美 著



【著者】松原 直美(まつばら なおみ)
1968年東京生まれ。上智大学経済学部卒業。早稲田大学大学院アジア太平洋研究科国際関係学専攻博士後期課程退学。タイの公立高校日本語講師を経て、ドバイへ2006年に移動。UAE国立ザーイド大学にて日本語指導と空手道の初代講師として、2007年~2012年まで勤務。UAEでは茶道の振興にも携わった。現在はロンドン在住だが、UAEと日本の架け橋となるべく活動を続けている。著書に『住んでみた、わかった! イスラーム世界』がある。 ブログ「ドバイ千夜一夜」(http://blogs.yahoo.co.jp/dubai1428)は、2007年から連載をはじめ、もう少しで1000回を数える。
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