カルチャー
2014年3月17日
ビットコインは「セカンドライフ」の仮想通貨と何が違うのか?
[連載] あなたはネットワークを理解していますか?【2】
文・梅津信幸
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マウントゴックスの経営破綻で、一躍注目されるようになった仮想通貨「ビットコイン」。そもそも仮想通貨とは何か、ビットコインの技術的仕組みはどうなっているのか? 『あなたはネットワークを理解していますか?』の著者・梅津信幸が、わかりやすく解説していきます。


あなたは「ビットコインの革新性」を理解していますか?


 「ビットコイン」はネット上の記録された仮想的な通貨と見なせるが、セカンドライフでの「リンデンドル」も同様だと思う人もいるかもしれない。
 今回はその話から始める。

 セカンドライフはアメリカのリンデンラボ社が提供しているオンラインサービスで、日本では2008年ごろから一時期それなりに流行した(流行させようと一部の企業ががんばった、というほうがより正確かもしれない)。3DのCGで作られた世界の中を自分のキャラクターを動かして、何でも好きなことをやってください、というものである。ここでのポイントは、その世界の中ではリンデンドルという通貨を使った経済活動が認められている点である。また、リンデンドルとアメリカドルが交換可能なので、その点では現実の通貨と同じで、その形式が電子的になっただけである。

 リンデンドルとビットコインの違いは、発行する主体があるかどうかと、その価値がどこにリンクしているかである。リンデンドルの価値や信頼性は、サービスを運営しているリンデンラボ社を信頼できるかと、現実のアメリカドルが信頼できるかにかかっている。これまでのところどちらもおおまかには安定していて、リンデンドルの価値に劇的な乱高下はなかった。現実の通貨にリンクしている分、価値の変動には「慣性」があるとみなせる。

 一方で、ビットコインには発行する主体がない(しいていえば、ビットコイン取引に参加するコンピュータ全体である)。ビットコインの信頼性は、インターネットやそれぞれのコンピュータの信頼性ともいえる。単一の企業の安定性に比べれば、ネット全体が同時に「落ちる」可能性は低い。

 ビットコインの価値は、それを「使おう」という意志のある人たちが集まって使っている状態があることで、価値が生まれている。したがって、人々がビットコインに見いだす期待の増減によって、価値が大きく増減してしまう。地中海のキプロスの通貨危機や中国のビットコイン禁止令で、現実の通貨との交換レートが乱高下したのはそのせいである。この点が、現実の通貨よりもビットコインが投機的と見なされる理由となっている。

 ビットコインを資産として保有しようとすれば、価値の変動にシビアにならざるを得ない。そうではなく、取引の一瞬のための便利な送金手段とみなせば、この問題点は小さくなる。送金の手数料もとても低いので、これまで小額すぎて決済できなかったコンテンツの売買などにも適している。また、国外への送金が簡単である(というよりそもそも国内外の区別がない)点も、従来の通貨ベースの送金と違う。大手銀行で国外へ従来型の送金をすると、数千円の手数料と日数がかかることも多い。

 SuicaやNanaco、楽天Edyなどのすでに普及している電子マネーとの違いも、主体の有無と現実通貨への価値のリンクである。それらの電子マネーの多くはプリペイド型であり、発行する企業を通じて現金を事前に別の形に変換しておくことで、単に便利にしているにすぎない。便利であることは普及にはとても重要だが、現実の通貨を置き換えるほどの革新性はない(硬貨や紙幣に加えて、電子的なカードという形態が増えたわけである)。

現実の世界で3万円を盗まれても「円」の信頼は失われない


 ところで、先日のマウントゴックス社の件は、ビットコインという世界規模のシステムの外部にある問題点が現れたにすぎない。例えていえば、どこかのコンビニから3万円が強奪されたからといって、それが日銀の発行する日本円の信頼を傷つけることがないのと同様である。ビットコインは世界中に分散した参加コンピュータが全体で維持運営しているのであって、マウントゴックスはそのシステムに参加したい人から現実通貨を受け取ってビットコインに交換していただけである(ただし、交換したコインをそのまま客から預かって管理していたことが問題を大きくした)。社内でのビットコインの保有の仕方に不備があったことが、コインの損失につながったと見なされている(詳しくは今後の解明が待たれる)。

 このように、ビットコインは今までの通貨と大きく異なる性質を持っている。では、問題点はないのかといえば、一番大きいのは、人々がまだこのような新しい通貨に慣れていないことであろう。法律も政治も追いついていないし、世間の理解もまだまだ限られていて、ごく一部の人たちが理解したり誤解したりしながら使っている状態である。しかし、通貨を国や発行主体の信頼で維持するのではなく、ネットワーク化されたコンピュータの分散された多数決で維持していくというアイディアは、間違いなく革新である。ビットコインがその最終形である保証はないが、従来の通貨を超える何かへと人類は歩み始めたのだ。インターネットが1990年代に普及し始める前まで、人々は「そんなものは現実には作れない」とその可能性を否定していた。その後のインターネットの普及のスピードをみると、「新しい」通貨へ至る道すじは意外と短いのかもしれない。

(第2回・了)
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梅津信幸 著



【著者】梅津信幸(うめづのぶゆき)
茨城大学工学部知能システム工学科講師
京都大学卒業、東京大学大学院博士課程修了(情報科学専攻)。博士(理学)。エルデシュ数=5。著書に『マイクロソフト・シンドローム』(共著、オーエス出版)、『「伝わる!」説明術』(筑摩書房)、『仕事を加速する技術』『あなたはコンピュータを理解していますか?』『あなたはネットワークを理解していますか?』(SBクリエイティブ)、『なぜコンピュータの画像はリアルに見えるのか』(NTT出版)、『できるプログラマになる!“伝える”技術』(技術評論社)など。