カルチャー
2014年4月7日
女性のほうが高いUAEの大学進学率。仕事もオシャレも楽しんでます!
[連載] 住んでみた、わかった! イスラーム世界【4】
文・松原直美
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アラブ女性が着る黒いアバーヤはすべて一緒、ではない


『住んでみた、わかった! イスラーム世界』

 恥ずかしながら、私は「イスラーム女性は勉強や仕事をしていないのでは?」という事実とは異なる先入観を持っていましたが、彼女たちが着ている民族衣装アバーヤに対しても偏見を持っていました。「アラブ女性は全身を覆う黒いアバーヤを着させられていてかわいそう」。私はドバイに引っ越すまではそのように思っていました。

 アバーヤは「男性の目から女性を保護するために体の線と肌を隠す」というイスラームの教えを守るために着ます。しかしアバーヤには本来の目的のほかに、個性やファッションセンスを表す大切な役割があることがドバイで現地女性と知り合ってからわかってきました。アバーヤには既製品もありますが、ほとんどのUAE人女性はアバーヤを専門店にてオーダーメードで仕立てています。自分の好きな形や模様を職人に伝え、オリジナルアバーヤを作るのです。鮮やかな色の刺繍やキラキラ光るラインストーンをあしらったアバーヤは若い女性に人気を集めています。模様なしのベーシックな黒い無地アバーヤを好む女性も、そのデザイン、生地の質などにこだわりがあります。

「制服を着なきゃいけないなんてかわいそう」って果たして言える?


 「アバーヤは抑圧された女性の象徴」と考えられていることについて、私は「制服」に関して自分に起きた出来事を思い出します。

 かつて私が日本で事務職として働いていた会社には、事務職用の制服がありました。私は自分の所属している組織や職務を表す制服を好んでいました。よぶんな洋服を買わなくてもよいし、仕事中自分の服を汚さずに済むという点でも制服がとても便利だと感じていたのです。

 しかし、同じ会社のアメリカ支社の男性研修生から、「君たち、制服を着なくちゃいけないなんて、かわいそうだね」。彼には「制服→着させられている→自由がない」という考え方ができあがっていたのです。その言葉を聞いてびっくりした私は、自分は制服を着るのが好きで制服にはいろいろなメリットがあることを説明しましたが、彼には私の話が理解できないようでした。

 そのアメリカ人男性と同じようなことを、実は私もタイに住んでいたときに言ってしまったことが......。タイでは公立、私立を問わず大学生は男女とも上は白いシャツ、下は黒か紺色のズボンまたはスカートを履きます。

 あるとき大学生たちに向かって「幼稚園から高校までずっと制服で過ごすのに、大学生になってまで制服があるなんてかわいそう」と言いました。すると大学生たちはこう答えました。「金銭的な理由で大学に行けない人もいるなか、自分は好きな大学に進学できた。その大学への所属をあらわす制服を着られるのが嬉しい」。

 このとき私は「今自分が言ったことは、かつて私がアメリカ人に言われたことと同種だ!」と気づき自責の念にかられました。

 これは制服について、着る人の意識とそれを見る人の解釈は必ずしも一致しないことを如実に示しています。これと同じことがアバーヤについても言えます。

 多くのUAE人女性は、アラブ人イスラーム教徒であることを示す黒いアバーヤに誇りを持っています。そのうえで自分の個性をアバーヤを使い表現しているのです。

 UAE人女性たち、特に若い世代は、閉鎖的で自由のない社会に暮らす人たちではなく、宗教と日常生活をうまく融合させながら勉強にも仕事にも精を出し、おしゃれも楽しむ人々でした。





住んでみた、わかった! イスラーム世界
目からウロコのドバイ暮らし6年間
松原直美 著



【著者】松原 直美(まつばら なおみ)
1968年東京生まれ。上智大学経済学部卒業。早稲田大学大学院アジア太平洋研究科国際関係学専攻博士後期課程退学。タイの公立高校日本語講師を経て、ドバイへ2006年に移動。UAE国立ザーイド大学にて日本語指導と空手道の初代講師として、2007年~2012年まで勤務。UAEでは茶道の振興にも携わった。現在はロンドン在住だが、UAEと日本の架け橋となるべく活動を続けている。著書に『住んでみた、わかった! イスラーム世界』がある。 ブログ「ドバイ千夜一夜」(http://blogs.yahoo.co.jp/dubai1428)は、2007年から連載をはじめ、もう少しで1000回を数える。
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