カルチャー
2014年4月21日
平成の零戦・航空自衛隊「F-2」は尖閣有事でどう戦うのか?
文・青木謙知/写真・赤塚 聡
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2000年から配備が始まったF-2は、日本の防衛に最適化するべく、すぐれた空対艦・空対地戦闘能力を備えた多用途戦闘機です。F-16をベースにしていますが、開発の主契約社は三菱重工業であり、国産戦闘機といっても過言ではありません。三菱重工業はかつて零戦(零式艦上戦闘機)を開発した企業です。そのため「平成の零戦」と呼ばれることもあります。F-2は、東北地方太平洋沖地震で発生した津波により18機が被災しましたが、13機が修理中で、F-35の配備後も現役機として運用されます。ここでは、F-2の全貌を記したサイエンス・アイ新書『F-2の科学』の刊行を記念して、尖閣諸島・有事の際のF-2の重要性について解説しましょう。


F-2に求められた能力とは?


主翼前縁付け根延長部の先端と、左右の主翼端から空気の渦流(ボルテックス)をだして飛行する第6飛行隊所属のF-2B。高G飛行など、激しく機動飛行すると、こうしたボルテックスが発生するが、航空自衛隊の戦闘機でボルテックスをよく見ることができるのがF-2である。この現象は機体設計に起因するところが大きいが、F-2の高い敏捷性を示す一端であるのも確かだ ※クリックすると拡大

 戦闘機の本来の役割は、敵の航空脅威を排除して自国を守る、いわゆる空中戦闘であり、敵の航空脅威の侵入や活動を許さない航空優勢の確保と維持にあります。また、敵の地上部隊の進撃を阻止したり、敵の地上部隊と戦う友軍地上部隊の支援、敵の地上戦闘力の制圧など、各種の空対地攻撃能力を兼ね備えることを求められた戦闘機もあります。

 これまでこうした機種は、戦闘攻撃機あるいは戦闘爆撃機と呼ばれていましたが、今日では多用途戦闘機(MRF:Multi-Role Fighter)という用語が広く使われるようになっています。

 日本のように四方を海に囲まれた島国国家にとって、敵の着上陸侵攻(海を渡って海岸から行われる侵攻)に対処できる能力をもつことは極めて重要です。敵の着上陸侵攻を阻止する航空戦活動は、敵が上陸活動中の海岸地域だけではなく、敵の着上陸部隊が事前に集結する洋上を含めた広い範囲で実施できなければなりません。

 このような、空対空戦闘能力、空対地攻撃能力、着上陸部隊を事前に撃破する空対艦攻撃能力を備えた航空自衛隊の戦闘機が、支援戦闘機と呼ばれる機種です。従来、支援戦闘機は、防空戦闘を主体とする要撃戦闘機と区別されていましたが、今日、その区分けは廃止されています。区分けが廃止された大きな理由の1つは、次期支援戦闘機(FS-X)として三菱「F-2」が採用されたからです。

 F-2は航空自衛隊が必要とする空対空戦闘能力、空対地攻撃能力、空対艦攻撃能力のすべてを兼ね備えた、真の意味での多用途戦闘機として完成しました。今後導入される、ロッキード・マーチン「F-35ライトニングⅡ」も、本格的な多用途戦闘機として完成、熟成される予定なので、航空自衛隊が戦闘機を要撃戦闘機と支援戦闘機に分ける必要はまったくなくなったのです。

F-2最大の任務は敵艦隊(上陸部隊)の殲滅


 航空自衛隊の戦闘組織は米空軍の航空防空コマンド(ADC:Air Defense Command)を手本につくられており、多数の警戒監視レーダーの配置や戦闘機部隊配備基地での緊急発進待機態勢の維持など、防空・要撃戦闘に力点を置いて構築されました。この名残はいまも強く残っています。

 しかし、1960~70年代を通じて戦闘機戦力が整備されると機数が余剰化したため、要撃戦闘機部隊とは別に、空対地攻撃などを主任務とする支援戦闘機部隊を整備することにしたのです。

 最初の支援戦闘機はF-86Fセイバーでしたが、1970年代に入ると国産の超音速支援戦闘機三菱「F-1」の開発が始まりました。F-1ではすぐれた空対艦攻撃力の獲得も開発の大きな主眼とされ、機体とともに空対艦ミサイルASM-1も並行して開発されました。こうしてF-1は、着上陸を阻止できる空対艦攻撃用兵器システムとして完成したのです。

 この高い空対艦攻撃力に関する要求は、F-2にも受け継がれました。4発の空対艦ミサイルを携行して、450浬(約830km)の戦闘行動半径をもつことが求められたのです。さらに、防空戦闘機として、視程外射程の空対空ミサイルを運用できることも求められました。当時、世界の戦闘機を見渡しても、これらを満たせる戦闘機はほとんどありませんでした。

 こうしたことからF-2は、米国のロッキード・マーチンF-16をベースとして、すべての要求を満たせるように日米が共同して改造、開発することになったのです。F-2には、アクティブ電子走査式のアンテナを使った火器管制レーダーの装備や、炭素繊維複合材料で一体成形した主翼など、日本が得意とする分野での最新技術も多数、盛り込まれることになるのです。


F-2の科学
知られざる国産戦闘機の秘密
青木謙知 著  赤塚 聡 写真



【著者】青木謙知(あおきよしとも)
1954年12月、北海道札幌市生まれ。1977年3月、立教大学社会学部卒業。1984年1月、月刊『航空ジャーナル』の編集長に就任。1988年6月、フリーの航空・軍事ジャーナリストとなる。航空専門誌などへの寄稿だけでなく新聞、週刊誌、通信社などにも航空・軍事問題に関するコメントを寄せている。著書は『徹底検証! V-22オスプレイ』『ユーロファイター タイフーンの実力に迫る』『第5世代戦闘機F-35の凄さに迫る!』『世界最強!アメリカ空軍のすべて』『自衛隊戦闘機はどれだけ強いのか?』『ジェット戦闘機 最強50』『F-22はなぜ最強といわれるのか』(サイエンス・アイ新書)など多数。日本テレビ客員解説員。

【カメラマン】赤塚 聡(あかつか さとし)
1966年岐阜県生まれ。航空自衛隊の第7航空団(百里基地)で要撃戦闘機F-15Jイーグルのパイロットとして勤務。現在は航空カメラマンとして航空専門誌などを中心に作品を発表するほか、執筆活動やDVDソフトの監修なども行っている。日本写真家協会(JPS)会員。おもな著書は『ドッグファイトの科学』(サイエンス・アイ新書)。
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