スキルアップ
2014年5月29日
なぜ人はゲームにハマるのか【前編】モチベーション
[連載] なぜ人はゲームにハマるのか【1】
文・渡辺 修司/中村 彰憲
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人がゲームに夢中になるとき、そこにはモチベーションの問題が大きく関係しています。では、モチベーションはどのようにすれば保てるのでしょうか。どのような先行研究があり、現実のゲームでどのように活用されているのでしょうか。


刺激と反応


 人が何かの行為を継続しているとき、人は行為の結果として得られる報酬や、行為そのものに対して、何かしらのモチベーションを有していると考えられます。産業革命以後、工場労働者の増加にともない、勤労意欲の喪失や疎外感などが新たな社会問題として浮上してきました。こうした社会的要請を背景に、モチベーションに関するさまざまな研究が行われてきました。

 中でも古典的で有名なものに、「パブロフの犬」に代表される、心理学における行動主義的な側面からの研究があります。犬に餌を与えるときにベルを鳴らしていると、次第にベルの音を聞くだけで、犬はよだれをたらすようになります(『ゼロからわかる図解心理学』<中経出版>)。これらの研究をきっかけとして、人の行動に何らかの条件づけをすることで、その行動に対する意欲や持続性が高まっていき、罰を与えると薄まっていくというメカニズムの検証が、心理学において進みました。

 そこで、いわゆる「飴と鞭」をうまく使い分ければ、モチベーションの維持管理が可能になる、という考え方が出てきます。報酬と懲罰による行動の制御などが好例です。これは「刺激と反応」に基づく反復作用の応用例だと言えるでしょう。

 パチンコやパチスロなどの遊技機や、ギャンブル、ゲーミングと呼ばれるシステムの多くは、こうした「刺激と反応」理論をうまく活かしています。カードコレクション型ゲームにおけるガチャなども同様です。ガチャは実質的な報酬ではなく、レアアイテムという仮想的な報酬という点で違いはあります。しかし中には、ルール違反であることを知りながら現金で取引するプレイヤーも出ています。

 「刺激と反応」に基づく快感は、ユーザーに無意識のうちに働きかけ、時に中断によって禁断症状を及ぼすことがあります。ゲームに没頭するあまり睡眠時間が減少したり、疲労などで日常生活に悪影響が生じたりする「ゲーム依存症」の問題も、このメカニズムが背景にあると考えられます。

目標と評価


 人には「努力すれば何かが得られる」という期待感があります。そして実際に、努力に対する適切な評価や報酬が得られる場合、その行為を持続する傾向が見られます(『目標が人を動かす―効果的な意欲づけの技法』<ダイヤモンド社>)。つまり、目標と評価のバランスが適切である場合に、モチベーションが高まるというわけです。これは多くの人が日常的に感じていることではないでしょうか。

 「プレイヤーが目標に向かって努力する」→「ゲームが適切に評価する」という過程は、多くのゲームに共通して見られます。たとえば、カードコレクション型ゲームには、多くの場合コンプリートを促すシステムがあります。カードを追加するデッキが存在し、まだ登場していないカードの部分だけが空欄になっている、といったものです。デッキの余白を全て埋めると、派手な演出が行われたり、これまで倒すことができなかった巨大なボスを倒せるようになったりするといった報酬が、プレイヤーに与えられます。つまり、コンプリートという目標を達成したことを、ゲームが評価しているわけです。

 多くのゲームは、このように、課題設定とクリアの繰り返しで進んでいきます。課題は簡単すぎても、難しすぎてもいけません。このバランスが適切にとられていれば、モチベーションを保つことができます。この考え方は、次回解説する「フロー理論」へとつながっていきます。






なぜ人はゲームにハマるのか
開発現場から得た「ゲーム性」の本質
渡辺 修司、中村 彰憲 著



【著者】渡辺 修司(わたなべ しゅうじ)
2007年より大学の教鞭をとり、2010年度より正式に立命館大学映像学部准教授に専任。現職 日本デジタルゲーム学会研究委員、立命館大学ゲーム研究センター運営委員。1997 年 「FinalFantasy7 international」(株式会社スクウェア) でゲーム業界に参加後、多数の会社で企画・監督職として参加。代表作は、2008年「internet Adventure」(株式会社セガ) 原案・企画監修。2004年 エンターブレイン主催 第1回ゲーム甲子園 大賞受賞 「みんなの城」個人作品、2003年 メディア芸術祭審査員推薦作品 「ガラクタ名作劇場 ラクガキ王国」(株式会社タイトー 2003年)、原案・監督職

【著者】中村彰憲(なかむら あきのり)
立命館大学映像学部教授、日本デジタルゲーム学会副会長、立命館ゲーム研究センター運営委員。名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程後期修了後、早稲田大学アジア太平洋研究センター助手、立命館大学政策科学部助教授を経て現職。東京ゲームショウアジアビジネスフォーラムアドバイザー(2010ー2011)、太秦戦国祭り実行委員会委員長(2009-2012)などを歴任。主な著書に、「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ、アジア市場を担当)、「ファミコンとその時代」(NTT出版、上村雅之氏、細井浩一氏と共著)、「テンセント VS. Facebook」、「グローバルゲームビジネス徹底研究」、「中国ゲームビジネス徹底研究」シリーズ(全てエンターブレイン)など多数。「ファミ通ゲーム白書」においては創刊以来、一貫して中国及び新興市場を担当する。最近は、GPS機能を活用したゲーム的アプリ開発のプロジェクトにも参画し、GDC2012でも講演。博士(学術)。
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