カルチャー
2014年6月11日
サラリーマンに深刻な過敏性腸症候群
[連載] 『腸をダマせば身体はよくなる』より【2】
辨野義己
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臓器でコントロールできるのは大腸だけ!


 身体の調子が悪いから、おなかの調子も悪くなった、といったように、体調が悪いから腸の調子も悪い、と考える人は少なくありません。

 ところが、免疫細胞の約70%が腸に集中していることからもわかるように、腸の調子が悪いから体調も悪い、といったことはよくあるのです。逆に、腸の調子がいいから体調もいい、ともいえるのです。つまり、体調が悪いから腸の調子も悪い、というのは、腸にダマされていることが結構あるのです。

 腸で働く免疫のメカニズムを簡単に説明すると、小腸の内壁には、病原菌やウイルスから身体を守る「絨毛」という0.2~1.2ミリの突起が数百万~数千万個もあります。この小さな絨毛と絨毛の間には、病原体の侵入を察知する「パイエル板」が30~40個あり、ここで病原体を察知すると「リンパ節」に指令が行き、「リンパ球」が放出され、病原菌やウイルスをやっつけてくれるのです。

 免疫細胞の約50%は小腸が占めている、ともいわれ、この免疫細胞の働きが強いと免疫力も強くなり、病原菌やウイルスに負けない健康な身体を維持することができるのです。ところが、免疫細胞の働きが弱くなると病原菌やウイルスに負けてしまい、病気になりやすくなったり、老化が早まったりするのです。

 この免疫細胞の働きを調節してくれるのが、腸内細菌なのです。善玉菌が優勢だと、調節がスムーズにいくようになります。

 免疫細胞の数は、小腸が大腸の100倍以上と圧倒的に多いのですが、大腸の細菌のバランスがよければ、免疫細胞の働きの調整はうまくいきます。こうなれば腸の調子がよくなり、身体の調子もよくなります。

 人間の臓器のなかで、唯一コントロールできるのは大腸です。いかに腸内細菌をコントロールするかがカギとなってきます。そのためには食事に気をつけ、適度な運動を心がけなければなりません。

 とくに食事は重要で、動物性脂肪の多い食事や偏った食事を控え、食物繊維の多い食事を積極的に摂るよう心がける必要があります。食物繊維はビフィズス菌や乳酸菌など、善玉菌のエサになったり、腸内をきれいにしてくれたりするので、腸内環境がよくなります。

 大腸に送り込まれた食べかすが、腸内環境、ひいては健康や病気、若さや寿命をも左右するのです。前回、「大腸はあらゆる病気の発生源」「あらゆる病気の原因は大腸に棲む腸内細菌」と書いたのは、そのためです。

 健康のために食事に気をつけている人でも、肝臓にいい食べ物、腎臓にいい食べ物といったような摂り方をしていることは少なくありません。これではある意味、腸にダマされていることになります。というのも、肝臓や腎臓などの臓器はもちろん、健康をコントロールしているのは腸だからです。

 腸内環境が悪くなって善玉菌が減り、悪玉菌が増えると免疫力が低下するのは、すでに説明したとおりです。こうなると、悪玉菌がつくりだす有害物質が大腸から吸収されて血流に乗り、時間をかけて身体を蝕むことになります。

 ですから、腸内環境を改善する食べ物を摂る必要があるのです。大腸を制することは病気を制することです。つまり、腸内環境をよくすることが、病気を予防する第一歩となるのです。そして、毎日いいウンチを出すことが、いつまでも健康な身体をつくることにつながるのです。

 大腸をコントロールすることができれば、腸にダマされ、健康を損なうことはなくなります。その具体的な方法については、次回説明していきます。

(第2回・了)





腸をダマせば身体はよくなる
辨野義己 著



【著者】辨野 義己(べんの よしみ)
1948年大阪府生まれ。独立行政法人 理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室長。 農学博士。DNA解析により腸内細菌を多数発見。腸内細菌と病気との関係を広く調べ、ビフィズス菌・乳酸菌の健康効果を広く訴えている。「うんち博士」としても、テレビ・雑誌等マスコミに登場。ヤクルト、協同乳業、ビオフェルミン、フジッコ、森永乳業、東亜薬品工業など7社出資で、理化学研究所内に辨野義己特別研究室を開設。著書に『大便通』(幻冬舎)、『見た目の若さは腸年齢で決まる』(PHP)、『腸をダマせば身体はよくなる』(SB新書)などがある。



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