ビジネス
2014年6月16日
一瞬で決算書を読み解く国税調査官の「目線」
[連載] 一瞬で決算書を読む方法【3】
文・大村大次郎
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楽天は赤字なのに儲かっていた!


 たとえば、楽天という企業の決算書は、あまり無理に利益を出そうとしていない。なぜかというと、楽天は同族会社に近い形態の企業からである。

 上場企業は、株式の過半数を一族が握っている同族会社というのはあり得ない。上場の条件として、同族会社は不可とされているからだ。しかし、同族会社とまでではないけれど、創業者一族が株の大半を握っていて、経営権も握っているという上場企業はたくさんある。

 そういう企業は、同族会社と似たような性質になる傾向がある。粉飾をするのではなく、なるべく損失を多くだし、利益を無理に出さない。

 そういう傾向の企業の最たる例が、楽天である。

 この楽天という会社、右肩上がりで成長しているようなイメージがあるが、実は近年、2年続けて赤字を出していたことがある。2003年度と2004年度、楽天は、営業利益は黒字になっているのに、特別損失を計上し決算書自体は赤字となっているのだ。

 2003年ごろというのは、インターネットでのマーケットが急拡大し、インターネット関連の企業が急成長している時期だ。この時期に、楽天が2年続けて赤字というのは、おかしな話ではある。

 なぜ楽天は赤字になっていたのか?

 その原因を追究すると、楽天という企業の性質がわかりやすく見えてくる。

 なぜ楽天が赤字になっていたか、というと、企業買収したときに生じる「のれん代」をわずか3年間で償却していたからだ。

 のれん代というのは、企業を買収した時、その企業の帳簿上の資産額よりも、買収価額の方が大きい場合の差額のことだ。その企業の営業上のノウハウや人材が、帳簿に表れていない価値を生じ、買収価額に反映された、という解釈をされるのだ。この差額が、営業権やのれん代などと言われるのだ。

 この「のれん代」は、金融商品取引法では5年で均等償却しなければならない、と定められているが、以前は一括償却することも可能だった。また連結財務諸表原則の改訂により償却期間は最大20年まで伸ばすことができるようになった。

 この制度を利用して、のれん代の償却を最大20年に引き延ばす企業も多い。のれん代の償却期間が延びれば、その分、年間の償却費は少なくなる。つまり、経費が少なくなるのだ。企業としては、普通は決算書の見映えをよくするために、なるべく償却期間を長く設定したいものである。

 しかし楽天は、「のれん代」の償却期間を非常に短く設定していたのだ(わずか3年)。短期間で償却すれば、その分、経費が大きくなる。経費が大きくなれば、赤字になる、というわけだ。

 つまり、楽天は企業買収を行うごとに経費を増やし、決算書上は赤字となっていたのだ。楽天がこのような保守的な決算書をつくっていたのは、冒頭で紹介したように、この起業が同族会社に近いからである。

 楽天の株というのは、創業者の三木谷氏とその関係者で4割を占めている。実質的には同族会社のようなものだ。

 このような会社はでは、遮二無二株主の機嫌を取る必要はないし、無理に利益を出して株価を引き上げる必要もない。だから悪い材料や、損失に結びつくことは早めに決算書に出せるのだ。

(第3回・了)





一瞬で決算書を読む方法
税務署員だけのヒミツの速解術
大村大次郎 著



【著者】大村 大次郎(おおむら おおじろう)
大阪府出身。元国税調査官。国税局で10年間、主に法人税担当調査官として勤務し、退職後、経営コンサルタント、フリーライターとなる。執筆、ラジオ出演、フジテレビ「マルサ!!」の監修など幅広く活躍中。主な著書に『あらゆる領収書は経費で落とせる』『税務署員だけのヒミツの節税術』(以上、中公新書ラクレ)、『税務署が嫌がる「税金0円」の裏ワザ』(双葉新書)、『無税生活』(ベスト新書)、『決算書の9割は嘘である』(幻冬舎新書)、『税金の抜け穴』(角川oneテーマ21)など多数。最新著書は『一瞬で決算書を読む方法』(SB新書)
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