ビジネス
2014年6月23日
吉本興業は決算書までおもしろい!
[連載] 一瞬で決算書を読む方法【4】
文・大村大次郎
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国税調査官は実は会計の知識がそんなにないにもかかわらず、会社の数字の嘘を瞬時に見抜いています。そのスキルは知識や時間のないビジネスパーソンにうってつけのものといえるでしょう。本連載では、元国税調査官で新書累計70万部のベストセラー作家・大村大次郎の最新刊『一瞬で決算書を読む方法』から、「あまり勉強せずに会社の業績を読めるようにしたい…」「会社が公表する決算書に騙されたくない…」人向けに、決算書を読むツボを紹介していきます。


吉本興業は決算書で見れば超優等生!


 これまで3回の連載で、国税調査官の「一瞬で決算書を読む方法」をご紹介してきた。
 最終回では、これまでの応用編として、吉本興業の決算書を読み解いてみたい。

 筆者は、以前、吉本興業の決算書を研究したことがある。

 吉本興業というと、タレントの不祥事、暴力団とのつながりなど、企業としては悪いイメージばかり報道されるので、あまりいい印象を持たれていないかもしれない。

 芸能界というのは、昔から暴力団とのつながりがあったりして、その点は古い体質を残した業界だといえる。吉本興業も、その体質から抜け出しているとは言い難く、模範的な企業に挙げるのは、若干の躊躇がある。

 しかし、吉本興業の決算書を見た場合、これほど優等生的な企業はないのである!

 というのも、吉本興業は不況に非常に強い企業だからである。

 不景気のたびに業績を伸ばし、不況を食って巨大化するモンスター企業だといっていい。もっとも顕著なケースは、バブル崩壊後の日本経済の「失われた10年」と言われる期間である。

バブル崩壊後の吉本興業とホリプロの売上 ※クリックすると拡大

 バブル崩壊時直後の1992年、吉本興業は売上120億程度に過ぎなかった。

 しかし、それからの10年で驚異的な成長を見せ、5年後の1997年の売上は約2倍に、10年後の2002年には3倍以上となる376億円になった。

 さらに、2008年には過去最高の501億円を記録した。

 バブル崩壊からの20年でおおむね4倍となったのである。

 「バブル崩壊後は、吉本興業だけじゃなくて、芸能プロダクション自体の業績がよかったんじゃないのか?」

 そう考える人もいるだろう。

 しかし、バブル崩壊後、芸能界全体の景気がよかったわけではない。

 試しに、吉本興業と同じような上場企業であるホリプロと比較してみたい。

 ホリプロは、和田アキ子などを擁する、言わずと知れた日本最大手の芸能プロダクションである。1963年に設立されているので、吉本興業よりはずいぶん若いが、両者ともテレビの隆盛とともに、成長してきた企業である。

 2002年には、両社ともに芸能関連企業としては初めて経団連への加入が許された。両者は芸能プロダクションの両雄といえるだろう。

 バブルが崩壊したとされる1992年の時点では、ホリプロ111億円、吉本興業の売上高123億円と、その差はほとんどない。

 しかし、その後の10年で、両者には圧倒的な差がつく。

 2002年の売上は、ホリプロの172億円に対して、吉本興業376億円とダブルスコア以上の差をつけている。

 ホリプロも業績が決して悪かったわけではない。バブル崩壊時に比べれば、50%以上の伸び率を示しているのだから、他の企業に比べればかなり健闘しているといえる。

 だからホリプロがうんぬんということではなく、バブル崩壊後の吉本興業の伸びが異常なのである。






一瞬で決算書を読む方法
税務署員だけのヒミツの速解術
大村大次郎 著



【著者】大村 大次郎(おおむら おおじろう)
大阪府出身。元国税調査官。国税局で10年間、主に法人税担当調査官として勤務し、退職後、経営コンサルタント、フリーライターとなる。執筆、ラジオ出演、フジテレビ「マルサ!!」の監修など幅広く活躍中。主な著書に『あらゆる領収書は経費で落とせる』『税務署員だけのヒミツの節税術』(以上、中公新書ラクレ)、『税務署が嫌がる「税金0円」の裏ワザ』(双葉新書)、『無税生活』(ベスト新書)、『決算書の9割は嘘である』(幻冬舎新書)、『税金の抜け穴』(角川oneテーマ21)など多数。最新著書は『一瞬で決算書を読む方法』(SB新書)
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