カルチャー
2014年6月18日
ミドル&シニアの筋トレは、体力や筋力の衰えを自覚するところからスタート
[連載] 50歳を過ぎても身体が10歳若返る筋トレ【1】
文・増田晶文
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筋トレは盆栽に似ている


 筋トレで身体との会話ができるようになると、睡眠の質や性欲、意欲、食事と飲酒の量などさまざまな身体からのメッセージに敏感になれる。不調のタネの在処が身体に由来しているのか、それともメンタルなのかを把握しやすくなるはず。肉体をとおして、自分自身への意識の仕方が深くなる。

 身体と会話できるようになれば、ダイエット、こと減量が格段に進展していく。体重を減らす要諦は、摂取カロリーと消費カロリーのバランス。食事の前、「本当に空腹か?」と己に問うてみるといい。必要もない食事はしなくていい。欲しいときに、食べたいものを、適量だけ、心から感謝していただけばメタボなんかはたちまち解消してしまう。

 ただし――それもこれも、普段から身体とコミュニケーションできてこそのことだ。

 筋トレは盆栽に似ている。

 肉体というのは小さな宇宙にほかならない。鉢の中で幹を育て、枝を意図的にデザインしていく。しかも樹の個性を殺してはいけない。松には松の、梅には梅の良さがある。

 とはいえ、松を梅にするのは不可能だ。

 人間の体型や筋肉の素質は千差万別。筋トレは、その個性を知って行うべきだ。誰もがボディビルチャンピオンのような肉体になることはできない。だが、細身でもバランスのとれた形よい筋肉は手に入る。冷蔵庫のようなシェイプだったとしても、現役のラガーマンばりに固くしまった筋肉をまとえる。

 筋トレで身体と対話をしていると、己の活かしどころ、輝かせるべきポイントがわかってくるのだ。

 もとより、ミドル&シニアの筋トレに他人との比較なぞ必要ない。あくまで基準は自分自身。出ていた腹がへこみ、ジジむさい猫背がすっと伸び、階段の昇り降りが楽になる。これこそが筋トレの果実。もし、他人と比べだすと、たちまち筋トレは凄まじいストレスになってしまうだろう。

 自分とはいったい何者か――この哲学的すぎるテーマは、もちろん筋トレだけで解決できるわけがない。一生をかけた体験、書籍や先達の教えなどを積み重ね、醸造させながら模索するべきものに違いない。

 でも、筋トレはその道中の一部分であれ、立派にガイド役をつとめてくれる。

「老後」ではなく「老先」――アクティブに生きるための筋トレ


 あえて断言しよう。

 トレーニングを重ねれば、中高年であっても筋肉は必ず発達する。たとえサイズアップしてなくても、シェイプがくっきりとした筋肉はカッコいい。オッサンは、若僧どもに比すれば筋発達のスピードが鈍るけれど、決してストップしたりバックすることはない。そのことは科学が証明するところだ。

 筋肉の形が整ってくると、心の底に自信が芽生えてくる。これもミドル&シニアにはうれしい効果。前述したアンチエイジングでのよろこびも加わる。

 とはいえ、筋トレで20歳も30歳も若返るのは無理というもの。5歳から10歳くらいと心得ておいていただきたい。

 美魔女を目指すのなら、ジムにいくより美容整形へいってください。

 ミドル&シニアの筋トレは、人生の道のりの半ばにあって体力や筋力の衰えを自覚するところからスタートする。衰えた分を取り返し、プラスに転じていけるから中年のトレーニングはおもしろいし味わい深い。

 筋トレは外見的な若返り以上に、内面的な充足や成熟に大きく寄与してくれる。ミドル&シニア世代は、若き日々の輝きを大事な思い出として心のアルバムにストックしておけばいい。大事なのは、過ぎてしまった時間より、これからの老先にどうライトを当てるか――。

 そりゃ中年ともなれば、シワが増えるし薄毛にもなる。体力だって減退する。それが老いというものなのだ。だけど筋トレのおかげで、実年齢より身体は若々しくできる。そこに成熟した人生観が加わっているのが「あるべき大人の姿」だと、私は信じてやまない。

 肉体と対話し、健康という武器を手にして、来るべき将来を「老いた後」ではなく「老いの先」と捉えられるようにしようではないか。

「老後」ではなく「老先」――そこには天に召されるまでの時間を、よりアクティブに生きるという充足が待っている。そのための手段として筋トレをうまく活用していただきたい。

 人生がどこまでつづくか、誰にもわかりゃしない。生きている限り、前に道を拓いていくしかない。ミドル&シニアはもう、若僧のように駆ける必要はなかろう。だけど、しっかり地に足をつけて歩いていこう。

 この旅の伴侶に、ぜひ筋トレを。

 積みあげたトレーニングは年齢にかかわらず必ず報いてくれる。そのためには、常に肉体と対話し、己の体調や精神状態をアジャストしながらトレーニングしなきゃいけない。かといって、がんばり過ぎてもダメ。そうした「微妙な加減」は、ミドル&シニアが経験してきた人生のアレコレとよく似ている。

 希望は捨てないけれど、過剰に期待もしない。けど、けっこうしたたかにやってのける。老いと正面衝突したり、老いから逃げ回るのではない。さらりといなすのが50代、60代からの筋トレの極意なのだ。

(第1回・了)





50歳を過ぎても身体が10歳若返る筋トレ
こうすれば愉しく無理せずに続けられる
増田晶文 著



【著者】増田 晶文(ますだ まさふみ)
作家。1960年生まれ。26歳から本格的にウエイトトレーニングを開始し現在進行形、雑誌「Tarzan」でも紹介される。身長170センチ、体重60キロ、体脂肪率5.9%(2014年2月22日時点)。「Number」などの雑誌でトップアスリートやトレーニングコーチたち、さらにサッカーワールドカップ、オリンピックなど国際大会を数多く取材。ボディビルダーたちを主人公にした著書『果てなき渇望』で文藝春秋Numberスポーツノンフィクション新人賞を獲得。同作品は2000年に書籍化され、「文藝春秋が選ぶスポーツノンフィクション単行本部門第1位」にも輝いた。著書に、『ジョーの夢 新島襄と徳富蘇峰、そして八重』(講談社)、『うまい日本酒はどこにある』(草思社文庫)などがある。近著は『50歳を過ぎても身体が10歳若返る筋トレ』(SB新書)。
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