ビジネス
2014年7月29日
税務署は決算書の「株主構成」を真っ先に見ていた――国税調査官だけのヒミツの決算書速解術(5)
[連載] 一瞬で決算書を読む方法【9】
文・大村大次郎
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国税調査官は実は会計の知識がそんなにないにもかかわらず、会社の数字の嘘を瞬時に見抜いています。そのスキルは知識や時間のないビジネスパーソンにうってつけのものといえるでしょう。本連載では、元国税調査官で新書累計70万部のベストセラー作家・大村大次郎の最新刊『一瞬で決算書を読む方法』から、「あまり勉強せずに会社の業績を読めるようにしたい…」「会社が公表する決算書に騙されたくない…」人向けに、決算書を読むツボを紹介していきます。


「株主構成」で企業の傾向がわかる


 前回は、企業の数字を見る際には、その企業の個別の事情を知ることが大事だと述べた。

 それを聞いて、「企業の個別の事情など、そう簡単にわかるわけがない」と思った人もいるだろう。

 しかし、企業の個別の事情というのは、いろんなところから簡単に知る方法もあるのだ。

 たとえば、最も手っ取り早いのは「株主構成」を見ることである。

 「株主構成」は、上場企業ならばだれでも簡単に見ることができる。市販されている株式関連の情報誌には大概載っている。また、上場企業の決算書を見られるサイト「EDINET」には、「大株主の状況」というものがある。これには株主の上位10位までの名称と持株数が記載されている。

 実は、この「株主構成」というのは、会社の数字を見るうえで欠かすことのできない項目なのである。

 というのも、株主構成によって、決算書の傾向は全く違うものになるからだ。

 株主構成によっては、「粉飾をしやすいもの」もあれば「粉飾をほとんどしないもの」もある。また「脱税をしやすいもの」もあれば「脱税をほとんどしないもの」もあるのだ。

 たとえば、創業者が大株主になっていて、経営の実権を創業者が握っている企業では、粉飾はあまり行わない。

 こういう企業は、収益を上げて株価を上げる必要はあまりないからだ。大株主と経営者が同じなのだから、経営者は株主の機嫌を取る必要はない。だから、無理に収益を出すよりも、健全な経営をしようとする。

 また、下手に収益を出して、税金に取られるよりも、経営者の報酬を厚くするなど、経営者が自分に利する会計を行おうとするのだ。

 また、大株主が銀行で、ほとんど銀行の支配下にある企業などでは、これとは逆の傾向になる。オーナーである銀行の心証を良くするために、一生懸命に収益を上げようとする。経費を削減し、不採算部門を切り捨てたり、大掛かりなリストラをしたりなどもする。当然のことながら、脱税をするよりは、粉飾の方向への会計操作を行う。

 このほかにも、株主構成によって、さまざまな企業の特色の違いが出てくるのだ。

 大株主にファンドが入っている企業、大きな企業グループの傘下に入っている企業、社員の持株会が大株主になっている企業など、それぞれが全く違う方向の決算書になる。  それを踏まえずに、決算書の数字だけを追っても全く意味がない。

 国税調査官も、実は真っ先に「株主構成」をチェックする。それくらい株主構成は大事なのだ。

同族会社は脱税しやすい!


 株主構成を見て決算書の傾向を知る、わかりやすい例をご紹介したい。

 国税調査官は、企業の株主構成を見て、「同族会社」でなければ、ほとんどの場合、調査対象から外す。

 なぜかと言うと、脱税をする企業のほとんどは同族会社だからである。同族会社というのは、株の半数以上を一定内の同族で占める会社のことである。

 脱税というのは、そもそも会社の経営者ができるだけ多くの資産を蓄えたいという動機で行うものである。そして、脱税をする場合には、当然、収益を小さく見せかける必要がある。

 この条件を踏まえ、脱税をしやすい企業はどういう企業かというと、真っ先に挙げられるのは同族会社なのだ。

 同族会社の場合、収益を上げる必要はあまりない。創業者一族が株主であり、経営もしているので、経営者は収益を上げて株主の機嫌を取る必要は全くない。また、同族会社の場合、収益を出すと30%もの税金を課せられてしまうので、収益を出して配当金を受け取るよりは、経費などで会社からお金を引き出すほうが有利なわけだ。

 だから、「脱税するのは同族会社」というのは、ごく当然の見方と言える。実際、脱税をして摘発される会社のほとんどは同族会社なのだ。

 一方で、非同族会社の場合、だいたいの企業は、脱税をする動機というのがあまりない。たとえば、非同族の上場企業の場合、経営者は株主から雇われている身分にすぎない。だから、株主の心証を良くするためには、なるべく収益を上げなくてはならない。脱税をして会社の資産を蓄えても、それが自分のものになるわけではないので、何のメリットもないのだ。

 また、どこかの子会社の場合、子会社の経営者というのは、親会社から出向している社員にすぎない。これも、収益をなるべく大きく計上してでも、親会社の心証を良くしなければならない。脱税などをするのであれば、収益は小さくなるので、子会社の経営者にとっては失点以外の何物でもない。

 だから、国税調査官は、税務調査先を選ぶときには、まず同族会社からということになる。

(第9回・了)
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一瞬で決算書を読む方法
税務署員だけのヒミツの速解術
大村大次郎 著



【著者】大村 大次郎(おおむら おおじろう)
大阪府出身。元国税調査官。国税局で10年間、主に法人税担当調査官として勤務し、退職後、経営コンサルタント、フリーライターとなる。執筆、ラジオ出演、フジテレビ「マルサ!!」の監修など幅広く活躍中。主な著書に『あらゆる領収書は経費で落とせる』『税務署員だけのヒミツの節税術』(以上、中公新書ラクレ)、『税務署が嫌がる「税金0円」の裏ワザ』(双葉新書)、『無税生活』(ベスト新書)、『決算書の9割は嘘である』(幻冬舎新書)、『税金の抜け穴』(角川oneテーマ21)など多数。最新著書は『一瞬で決算書を読む方法』(SB新書)