スキルアップ
2014年9月17日
漫画『カイジ』から学ぶ「絶体絶命のピンチに陥らない極意」
[連載] ゲーム理論で身につける、勝つための駆け引きの極意【1】
文・安部徹也
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『囚人のジレンマ』から導かれる絶体絶命のピンチに陥らない極意


 相手と一定の成果をシェアし、勝った負けたのゼロサムゲームで戦う場合、相手を信用させて自分の思い描いたストーリーに引き込むことが出来れば、自分にとっては取り分が最も大きくなります。最初から相手と限られたパイを奪い合う血みどろの戦いを繰り広げればどれほど成果を奪えるかはわかりませんが、まずは相手を信用させてある程度の成果を得てしまえば、たとえ裏切りに気付かれても、もう時すでに遅しです。相手が騙されたことに気付き、奪われたものを取り戻そうと躍起になっても取り返しの付かない状況になっているのです。

 たとえば、カイジは限定じゃんけんで船井を信じてあいこを続けますが、10戦目で裏切られ、11戦目でも船井を信じてしまったために、2つもの星を失った挙句に残すところはカード1枚と取り返しの付かない状況に追い込まれてしまったことが、その事実を如実に物語っています。

 つまり、相手から最大限のものを最小のリスクで奪うためには、小さな信用を積み重ねて最終的に大きく裏切ればいいのです。これがゲーム理論の『囚人のジレンマ』の一つの教訓です。

 一方で、裏切られる方は相手を全面的に信用することによって、最大限のダメージを受けることにつながります。

 それでは、このような最悪の事態を避けるためにどのような駆け引きが重要になるのでしょうか?

 まず一つ目は相手を盲目的に信用しないということでしょう。人を心の底から信頼できないというのは悲しいことですが、人は極限の状況に置かれれば、最終的には自分の利に応じて行動すると思っていた方が無難です。性善説に立って人の本心は善良だと信じて疑わなければ、残念ながら相手に付け込む隙を与えて、いいように利用されるのが落ちなのです。

 続いて二つ目には、少しでも不信なことが起これば疑いの目を向け、自分が不利にならないように最善手を考えることでしょう。「やられたらやり返す」手に打って出なければならないのです。もし、早い段階で相手の裏切りに気付き、適切な対応を心掛ければ傷口は浅くて済むでしょう。

 そして、最後の三つ目は、最悪裏切られても立ち直る余力を残しておくことです。信頼している人に裏切られて全てを奪われるなら、立ち直ることさえ難しい状況に陥る可能性も高くなります。そこで、事前に裏切られた場合を想定してどの程度のダメージを受けるかを把握し、立ち直るまでの計画を立てておけば、万一裏切られたとしても最悪の事態だけは避けることができるのです。

 『囚人のジレンマ』に基づけば、お互いを信頼して行動することが、2人にとってはベストの結果につながります。ですから、100%信用できるパートナーであれば、お互いを信頼して行動することで、最も望む結果を得ることができるでしょう。ただ、もし相手が自分の利だけを目的に行動するようになれば、「やられたらやり返す」という方針で臨まなければ、絶体絶命のピンチに陥ることさえあることを頭の片隅に置いておく必要があるでしょう。

『賭博黙示録 カイジ』 福本信行著 講談社刊

(第1回・了)





「やられたら、やり返す」は、なぜ最強の戦略なのか
ゲーム理論で読み解く“駆け引き”の極意
安部徹也 著



【著者】安部徹也(あべ てつや)
株式会社MBA Solution代表取締役。1990年九州大学経済学部を卒業後、現三井住友銀行入行。退職後、インターナショナルビジネス分野で全米No.1のビジネススクールThunderbirdにてMBAを取得し、経営コンサルティング及びビジネス教育を主業とする株式会社MBA Solutionを設立。代表に就任し、現在に至る。2003年から主宰する『ビジネスパーソン最強化プロジェクト』では2万6千人以上のビジネスパーソンが参加しMBA理論を学んでいる。主な著書に『最強の「ビジネス理論」集中講義』(日本実業出版社)、『超入門コトラーの「マーケティング・マネジメント」』(かんき出版)などがある。『ワールド・ビジネス・サテライト』(テレビ東京)を始めとした多くのニュース番組出演を始め、日本経済新聞、週刊ダイヤモンドなどのビジネス系メディアにも登場多数。現在は、一般社団法人日本MBA協会の代表理事としても、一人でも多くのビジネスパーソンにMBA理論を普及させるべく日々奔走している。近著は『「やられたら、やり返す」は、なぜ最強の戦略なのか』(SBクリエイティブ)
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