カルチャー
2014年9月25日
「サラリーマン大家は楽して儲かる」を疑ってみよう
[連載] 不動産を買うなら五輪の後にしなさい【5】
文・萩原 岳
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決して「利回りが高い=いい投資」ではない


 また、リスクという用語は聞きなれた言葉ですが、これも投資においては意味合いが少し異なり、「結果の期待値から乖離する可能性の大小」と定義されます。

 誤解を恐れずざっくばらんに言ってしまえば、リスクとは予測の難しさを表す指標のことです。将来の元本割れや収益の安定性を予測することの難しさであり、例えば「来期は空室率が5%だと予測していたのに、ふたを開けてみたら10%だった」という場合、5%と10%の乖離が予測の不確実性、すなわちリスクだと言えるのです。

 そして、リスクが高いほど、つまり予測が難しいほどリターンは高くなります。競馬において単勝よりも三連単の方が、払戻金が断然多いのと理屈では同じです。このことをさらに誤解を恐れず言えば、「よくわからないから利回りを高めに設定しておけ」ということになるのです。

 ちなみに、利回り20%というのは、5年間で100%(20%×5年間=100%)になりますので、言い換えれば「初期投資を回収するのに必要な期間は5年間」の物件と言い換えることもできます。同じように、利回り5%は回収期間が20年間となります。

 下の表は各種金融商品のリスクと金利(利回り)のイメージです。これを見て分かる通り、元本割れや債務不履行を起こす可能性が高いほど金利(利回り)が高くなっています。表面上の指標ばかりを見るのではなく、「利回りが高い=いい投資」なのではなく、「利回りが高い=リスクが高い=ハイリスク・ハイリターン」ということを理解し、きちんと背後にあるリスクを吟味しなくてはいけないのです。

[様々な金利の比較]
銀行の普通預金金利     0.02%
銀行の大口定期預金     0.2%
10年物国債         0.5%
日経平均利回り(225銘柄)  1.4%
2年物アルゼンチン国債    11.1%(デフォルト危機に直面)

不動産投資でカモにされるパターンとは?


 不動産投資と聞いてワンルームマンション投資を思い浮かべる方も多いと思います。「低金利の時代に5%もの利回りが...」というセールストークを一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。これには、上記の利回り=リスク指標という論点とは別の問題が潜んでいます。

 というのも、多くの場合この5%は経費を引く前の「表面利回り」であることが多いのです。投資をする際には、経費を差し引いた手残りの純収益をベースに判断しなくてはいけません。5%の表面利回りを純収益ベースで計算しなおすと、多くは2~3%程度に下がってしまいます。「それでも銀行に預けておくよりはましだ」という声もあるでしょう。しかし、不動産投資は投資である以上、元本割れのリスクもありますので、銀行預金と同じに考えていけません。投資と預金は次元が異なるのです。

 また、まだ新築時ならばいいのですが、築年数が経過してくれば家賃も下がりますし、空室率も高くなり、赤字になってしまうこともあります。悪質な入居者による滞納や、事故物件になってしまう不安などで神経をすり減らす日々に嫌気がさし、損を覚悟で手放す方も多いようです。しかも、新築分譲時の価格と中古の売却価格とのかい離は、ファミリー向け居住用物件の比ではありません。なぜなら、投資物件は利回りを基準に意思決定がなされるからです。

 新築分譲はプロである販売業者対素人投資家という1対1の関係ですが、中古で売り出す場合は素人投資家対プロ投資家という1対多数の関係になります。新築分譲時は業者が値段を設定しますので、不動産に詳しくない購入者は物件のポテンシャルと比べて低い利回りで買ってしまいます。

 しかし、中古市場では歴戦の投資家や業者が目を光らせ、自分の投資尺度で物件を選別していますから、リスクに見合った適切な利回りで買値を決定します。例えば、新築分譲時に2~3%の利回りだった物件を5~6%利回りで値付けをした場合、市場価値は分譲価格の半値近くになってしまうことになります。

新築分譲時:純収益 70万円 ÷ 3% ≒ 2300万円
中古売却時:純収益 70万円 ÷ 6% ≒ 1200万円

 騙す方と騙される方では圧倒的に騙す方が悪いといえます。しかし、不動産投資について言えば、きちんと勉強をして経験を積むほど騙される危険性は減っていきます。ワンルームマンション業者も多くは善良な会社ですが、中には悪質な業者も混じっています。

 また、本人は気づかないだけで本当に得な投資と信じ込んでセールスする担当者もいます。必要な労力と時間をかけないまま、安易に不動産投資の世界に入ってはいけません。本を読み、セミナーを聞き、物件を見学し、経済動向に注意し、選別眼を身につけて初めて投資をしましょう。決して、「一発逆転」を狙ってはいけません。カモにされるだけです。

(第5回・了)





不動産を買うなら五輪の後にしなさい
不動産鑑定士がこっそり教える売買のコツ
萩原 岳 著



萩原 岳(はぎわら がく)
千葉県生まれ。東京外国語大学中国語学科卒業。株式会社アプレ不動産鑑定 代表取締役。不動産鑑定士。在学中より不動産鑑定業界に携わり、2007年不動産鑑定士論文試験合格、2010年不動産鑑定士として登録する。数社の不動産鑑定士事務所勤務を経て、2014年株式会社アプレ不動産鑑定を設立し、現職。相続税申告時の不動産評価など税務鑑定を専門とし、適正な評価額の実現を掲げ、相続人と共に「戦う不動産鑑定士」として活動する。また、実務で培った経験をもとに、「相続と不動産」について税理士、弁護士、不動産鑑定士など相続の実務家を相手とした講演活動も行っている。
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