カルチャー
2014年9月25日
知らないと損する年金リテラシー
~将来もらえる国民年金は生活保護より少ない?
[連載] 知らないと損する年金リテラシー【9】
監修・浜田裕也
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全額免除以外の免除で規定の保険料を納付しないとどうなる?


 全額免除は国民年金の保険料が0円になりますが、その他の3種類の免除は規定の保険料を納めなければなりません。例えば4分の3免除に該当した場合、月額約3750円を納めなければならないということです。それでは、もしこの3750円の保険料を納めないとどうなってしまうのでしょうか?

 その答えは「未納」です。

 全額免除以外の免除は、せっかく免除の手続きをしても、規定の保険料を納めなければ未納扱いになってしまうのです。なお、免除の保険料を納め忘れても2年以内なら規定の保険料を納めることで未納が回避できます。2年を過ぎると時効になってしまいますので、規定の保険料ではなく満額の保険料(約1万5000円)を納めなければならなくなってしまいますので注意してください。

「追納」はしたほうがよいのか?


 前回もお話をしましたが、免除した部分は10年前までさかのぼって「追納」できます。そこで最後に負担と給付の関係をみてみたいと思います。

 全額免除の部分を追納する場合、1カ月当たり約1万5000円の納付が必要です。追納によって増額する年金は年額約800円になります。強引な計算になりますが、追納保険料(約1万5000円)÷増額する年金(約800円)=18.75年、つまり19年以上年金をもらえれば、納めた保険料以上のお金が返ってくるといえそうです。

 4分の3免除の場合、追納保険料は1カ月当たり約1万1250円で年金は年額約600円増えます。こちらも追納保険料(約1万1250円)÷増額する年金(約600円)=18.75年、つまり19年以上年金をもらえれば結果としてプラスになるといえそうです。半額免除、4分の1免除も同様の計算結果になります。以下、比較表になります。

追納保険料と増額する年金 ※クリックすると拡大


 前回のお話でもありましたが「追納したほうが得なのか? 損なのか?」は、結局どのくらい長生きするかどうかにかかっています。したがって、個人個人の考え方によって追納すべきかどうかの判断は違ってくると思います。

「真面目に手続きや納付をした人間が報われない」制度なのか?


 「今回のような免除を利用した人が、果たして追納をするのか?」と訊かれてしまうと、その答えは「NO」と言わざるを得ません。なぜなら、今回の免除を利用される方たちに共通している点は、「収入が大変厳しい」ものがあるからです。

 また、若い世代で最近特に多い相談には次のようなものがあります。

・会社で働いている時に精神疾患を患ってしまいそのまま退職。次の仕事が見つからない、またはとても働ける状態ではない。
・成人した子どもの仕事が長続きせず、そのままニートやひきこもりになってしまった。

 どちらのケースも本人が復職できればよいのですが、それはなかなか難しい、という相談が多く見受けられるようになってきました。今後、労働による収入が見込めない、または成人した子を養っている親の収入は先細る、ということを考えると「追納はしない、またはできない」という選択をする方が今後も増えるでしょう。

 なお、復職ができない方たちは以下のような道をたどってしまうことが多いようです。病気で退職した方の場合、傷病手当金で食いつなぎ、その後は障がい年金や生活保護をもらう。子どもがニートやひきこもりになってしまった場合、親が生きている間は親に養ってもらい、親亡きあとは親の残した財産で生活、財産がなければ生活保護をもらう。

 どちらのケースも最終的には生活保護になってしまう可能性が高いという点では同じでしょう。

 以前、ご相談者の方から「真面目に免除の手続きをしたって、将来もらえる国民年金は生活保護より少ないじゃないか。それじゃあ、手続きをする意味がない。年金も納める意味がないじゃないか!」というようなお怒りの言葉をいただいたことがあります。確かにおっしゃることはごもっともなのですが、「現在の法律ではそうなっているので仕方がありません」としかお応えできないのが現状です。

 「真面目に手続きや納付をした方が報われない」というイメージをお持ちのご相談者が増えてきているように感じます。今後、生活保護や年金の見直しがなされるでしょうが、少なくとも真面目に年金の納付をされてきた方が損をしてしまうことのない社会になればよいと私も思います。

(第9回・了)





転職したり、フリーランスだったり、離婚を経験した人は知らないと損する、年金の話
浜田裕也 監修



【監修】浜田裕也
学習院大学理学部数学科卒。大学卒業後、塾講師(対象の生徒は小・中学生。数学と理科を担当)を経てファイナンシャルプランナー(CFP)へ転身。ファイナンシャルプランナーとして活動を続ける中、社会保障、特に年金制度に興味を持ち始め社会保険労務士の資格も取得。その後、社会保険労務士会の業務委託で年金事務所にて年金に関する相談も受けるようになり、相談件数は年間1,000件を超える。複雑な年金制度の解説や具体的な申請手続きの進め方のアドバイスには定評がある。老後の生活設計や将来の年金額のシミュレーションなどの記事が「週刊東洋経済」や「プレジデン」トなどに掲載されるほか、監修として『日本でいちばん簡単な年金の本』(洋泉社 第3章監修)、『転職したり、フリーランスだったり、離婚を経験した人は知らないと損する、年金の話』(SB新書)などがある。
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