スキルアップ
2014年9月25日
漫画『カイジ』から学ぶ「情報戦で勝ち抜く極意」
[連載] ゲーム理論で身につける、勝つための駆け引きの極意【2】
文・安部徹也
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正確な情報量の差が勝負を決する──『情報の非対称性』


 勝負はいかに事前に正確な情報を相手より多く入手するかで、ほぼ勝敗は決します。『敵を知り、己を知れば、百戦殆うからず』という言葉が孫子の兵法にありますが、まさに情報を制する者が勝敗を制するといっても過言ではないのです。

 情報に関して、現実的にすべての者が同じ情報を共有するということはあり得ません。情報を持てる者と持たざる者には大きな格差があるのです。これはゲーム理論では『情報の非対称性』と呼ばれています。

 ストーリーの中で、カイジたちは相手を事前に観察し、9枚カードを持っていて、前の2戦はグーとパーで勝負したという情報を入手しています。この情報に基づいて、バランスよくカードを残していれば、手持ちのカードは、グー2枚、チョキ2枚、パー3枚である可能性が高いと考えられます。そこで男は次にパーで勝負するという予測を立てることができるわけです。一方で相手の男は勝負前にカイジ関する詳しい情報は持たず、カード4枚と星1つという見てすぐにわかる表面的な情報しか持ち合わせていないわけです。ただ、ギャンブルの流れに乗ることができずに星を立て続けに奪われているカイジにはツキはなく、流れに乗っている自分にはツキがあると、勢いの差を根拠に勝負を受けてしまいます。

 もうすでにこの事前の情報量の差で勝負はついていたといってもあながち間違いではないでしょう。つまり、相手は確固たる情報ではなく、勢いという根拠のないものを信じ、自滅の道へとひた走ってしまったのです。

情報に基づかない理に沿った行動が窮地を招く──『ミニマックス戦略』


 理論は成果を上げるうえで絶大なる効果を発揮します。ただ、自分を取り巻く環境を知ることなしに理論を適用すれば逆効果になりかねないので注意が必要です。たとえば、ストーリーの中で、男は2戦目に勝利して以降、連勝する可能性を追求してカイジに戦いを挑んでいきます。

 ゲーム理論においては勝つよりも負けないことを重視する「ミニマックス戦略」というものがあります。ミニマックス戦略とは、危険を冒してまで勝ちを収める"ハイリスクハイリターン"の戦略を選択するよりも、負けたとしても被害を最小限に食い止める戦略を選択する方が賢明であるという考え方です。

自分はパーを出せば、少なくとも負けないはずなのに...... ※クリックすると拡大

 ストーリーの中で、カイジと対戦した男はこのミニマックス戦略の罠に陥ります。2戦連続でチョキを出したカイジには次にはチョキはあり得ないと自分から誤ってチョキの出る可能性を否定してしまったのです。そうすると男の頭の中には右のような表が浮かんできます。

 この表に基づけば、自分がパーを出しておけば少なくとも負けて星を奪われることはあり得ません。ですから、理論的に考えれば自ずと選択肢はパーで決まりです。ただ、この戦略は自身の偏見による誤った情報のうえに成り立っており、理に適った戦略も相手に読まれていれば、逆効果となりかねません。事実、男はまんまとカイジの思い通りに動いて自滅してしまいます。

 やはり、目標を達成するための戦略を決定する際は、できる限りの正確な情報を収集し、相手にすぐ読まれるような正攻法ではなく裏をかく戦略を駆使していかなければ、相手の術中にはまって、負け続けることにつながっていくのです。

『賭博黙示録 カイジ』 福本信行著 講談社刊

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(第2回・了)





「やられたら、やり返す」は、なぜ最強の戦略なのか
ゲーム理論で読み解く“駆け引き”の極意
安部徹也 著



【著者】安部徹也(あべ てつや)
株式会社MBA Solution代表取締役。1990年九州大学経済学部を卒業後、現三井住友銀行入行。退職後、インターナショナルビジネス分野で全米No.1のビジネススクールThunderbirdにてMBAを取得し、経営コンサルティング及びビジネス教育を主業とする株式会社MBA Solutionを設立。代表に就任し、現在に至る。2003年から主宰する『ビジネスパーソン最強化プロジェクト』では2万6千人以上のビジネスパーソンが参加しMBA理論を学んでいる。主な著書に『最強の「ビジネス理論」集中講義』(日本実業出版社)、『超入門コトラーの「マーケティング・マネジメント」』(かんき出版)などがある。『ワールド・ビジネス・サテライト』(テレビ東京)を始めとした多くのニュース番組出演を始め、日本経済新聞、週刊ダイヤモンドなどのビジネス系メディアにも登場多数。現在は、一般社団法人日本MBA協会の代表理事としても、一人でも多くのビジネスパーソンにMBA理論を普及させるべく日々奔走している。近著は『「やられたら、やり返す」は、なぜ最強の戦略なのか』(SBクリエイティブ)
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