ビジネス
2014年12月3日
「うまくいくわけがない...」弱気になったときの対処法
[連載] 開成高校野球部の「弱くても勝つ」方法【2】
文・山岡 淳一郎
  • はてなブックマークに追加

 誰しも、相手が強かったり、自分の状況が悪かったりするときは、つい弱気になりがちだが、その「うまくいかないな」という思い込みこそが、失敗を招く原因にもなる。

 前回に引き続き、SB新書『開成高校野球部の「弱くても勝つ」方法』から、弱気になったときの対処法を見ていこう。

「いつでも勝つ方法はある」と考える──足が遅くても走塁はできる!


 開成高校野球部の監督を務める青木秀憲先生は、走塁は貴重な戦術的要素と考えている。

 しかし、ご想像通り、選手の足は遅い。

「ウチの選手は、全員鈍足です。今年のチームには50mを6秒台で走れる選手はいないんじゃないかな。野球チームとしては異常です。異常」(青木談)

 足が遅いのであれば、走塁はしないほうがいいのではないかと思うのだが、青木先生はそうは考えない。

「たとえば、50mを6秒で走る選手がいても、打球の判断ミスをすると瞬く間に1秒、2秒経つわけです。そのとき、彼は50mを8秒で走る選手になるのです。でも、50mを7秒で走る選手がいて、いい判断をしてポーンとスタートを切れたら、50mを6秒で走る選手に負けない走塁ができるわけです」(青木談)

 「見えている部分」では負けているかもしれない。でも、現実には何が起こるのかわからない。着実に準備をし、ベストなタイミングで動けるようにしておけば、勝つ可能性だってある。情勢の変化が激しい今だからこそ、弱気になる前に、やるべき準備をすれば、勝機はある。一に準備、二に準備なのだ。

「目的」は見失わない──フォームはどうでも打てればいい!


 弱気で消極的になったり、焦ったりすると、客観的に物事が見えなくなる。そうすると、目的と違うものに執着してしまうことが意外とある。

 開成高校野球部の場合、目的は「勝つ」ことだ。その軸は常にブレない。

 たとえば、バッティング。青木先生は、バッティングも物理現象として捉え、「ボールの軌道に対し、バットが直角に当たるよう打ちなさい」と指導する。だから、バッティングはこうでなければいけない、というお仕着せはしない。フォームはともかく、直角にバットをボールに当てればいい。

「打撃フォームなんていうのは、目的とする技術が発揮できる形になればいいんだから『手段』なんです。だから、人によって多少の差があってもいい」(青木談)

 確かに開成高校野球部の選手達のバッターボックスでの構えはユニークだ。

 見てくれよりも、目的重視。打てればいい、のだ。

 仕事でも、しばしば手段と目的を取り違えがちになる。内容が大事な書類のはずが、体裁だけきれいにして後はおざなり、ということもままある。

 あるいは、自分に与えられたタスクがうまくいかず、何をどうしていいかわからないときも、手段が目的になっていることが多い。

 だいじなのは「何のため」にその仕事をするのか、という根本的な問いかけだ。再度「目的」を考え、その手段が合っているか、見直す必要がある。

目標は下げない──「甲子園に行こう」とは言わない理由


 青木先生は、東大時代には野球部に在籍し、現在も東京六大学野球リーグの審判もしている。最近の「連敗街道」から脱け出せない東大野球部を眺めて、こんなことを感じている。

「東大以外の大学は、1つの対戦カードで二勝して勝ち点をあげて、優勝に照準を定めている。だけど、東大は、1つ勝とう、1勝しようと言ってるわけです。これだと、最初から見ている風景が違うから、永遠に負け続ける気がします」(青木談)

 目標が低すぎては、負の循環に陥ってしまう。

 しかし、高すぎては、「どうせできない」という諦めが先に立つ。

 その点、青木先生は目標設定にも工夫を凝らしている。

「甲子園に行こう」ではなく、「●●校のような強豪校を撃破しよう」というのだ。

「何をどうすればいいのか」がわかる言葉を使うことで、具体的なイメージを喚起している。また、実際に、強豪チームと頻繁に練習試合を組んでいる。相手の胸を借りることで選手に「経験値」を積ませている。

「いつか、こんな仕事をしたい」「年収1000万円を稼ぎたい」という願望はあっても、具体的でなければ、何をどうしていいのかわらかない。

 壁に当たったときだからこそ、「何をすれば、自分は理想に近づけるのか」を考え、それを具体的な言葉として表現することが、目標達成への一歩となる。

(第2回・了)





開成高校野球部の「弱くても勝つ」方法
限られた条件で最大の効果を出す非常識な考え方
山岡 淳一郎 著



【著者】山岡淳一郎(やまおか・じゅんいちろう)
1959年愛媛県生まれ。ノンフィクション作家、東京富士大学客員教授。経済、政治、医療、スポーツなど分野を超えて旺盛に執筆中。著書『気骨 経営者土光敏夫の闘い』(平凡社)、『田中角栄の資源戦争』(草思社文庫)、『深海8000メートルに挑んだ町工場 江戸っ子一号プロジェクト』(かんき出版)、『原発と権力』(ちくま新書)ほか多数。

【取材協力】青木秀憲(あおき・ひでのり)
1971年群馬県出身。群馬県立太田高等学校から東京大学教育学部体育学健康教育学科、同大学院教育学研究科体育科学専攻の修士、博士課程を経て、1999年より開成中学高等学校保健体育科教諭、開成高校硬式野球部監督。1995年より東京六大学野球連盟審判員。
  • はてなブックマークに追加