カルチャー
2014年12月4日
【日本海海戦秘話】グラスゴーでつくられた戦艦「三笠」と砲身の秘密
[連載] 大局を読むための世界の近現代史【1】
文・長谷川 慶太郎
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未来を読みとおす卓見は、歴史への正確な理解から生まれる! 元祖エコノミスト・長谷川慶太郎氏が、今後の国際社会の変化を見通すための、20世紀・近現代史の読み解き方を伝授する『大局を読むための世界の近現代史』(SB新書)から、今回は「日英同盟」について解説しましょう。


日本海海戦勝利に大きく寄与した日英同盟


 明治37年(1904)2月に始まった日露戦争は、翌年5月の日本海海戦での連合艦隊の勝利で大勢が決しました。しかし、この勝利の裏には「大英帝国」イギリスの存在があったことを知る人は、意外と少ないと思います。

 日露戦争の2年前にあたる明治35年(1902)、日本はイギリスと「日英同盟」を結びました。それまでのイギリスは「栄光ある孤立」と称される非同盟政策を貫き、ヨーロッパのどの紛争にも介入しませんでした。また、どの国に対しても自由貿易を行い、自国製品の販売や輸出市場の拡大に務めた結果、イギリスは世界経済の中心として栄えました。

 しかし19世紀末になると、他のヨーロッパ主要国が連合体制(三国同盟、露仏協商)をしくようになり、イギリスの優位性に揺らぎが生じ始めます。さらに不凍港を求めて南下政策を行うロシアの動きから目が離せなくなり、同じくロシアに対して脅威を抱く日本と手を組む決断を下したのです。

 こうして日本とイギリスは同盟を結びましたが、この同盟が軍事的にも機能していきます。

 日露戦争では、日本海軍はイギリスで採れる「カージフ炭」(ウェールズ炭)という炭を燃料としていました。

 カージフ炭はイギリスのウェールズで産出される石炭で、当時の最高級を誇っていました。一方、19世紀末に日本で使用していた石炭は、黒煙がたくさん出る割には火力が弱く、艦船用の燃料としては不都合な点が多々ありました。

 そこで日清戦争後、来たるべきロシアとの戦争に備え、山本権兵衛海軍大臣はカージフ炭を大量に買い付けます。山本は明治31年(1898)から日露戦争が終結するまで、7年2カ月にわたり海軍大臣を務めた人物で、カージフ炭を大量に買い付けたほか、国内の造船所や製鉄所の整備、艦上での食事の改良などに取り組みました。

 カージフ炭を輸入したおかげで日本海軍の燃料の性能は飛躍的に向上し、日露戦争の勝利につながっていったのです。

グラスゴーでつくられた戦艦「三笠」と砲身の秘密


 日英同盟の締結と前後して、山本は艦船の新造をイギリスに発注します。こうしてスコットランド最大の都市グラスゴーにおいて、日露戦争で連合艦隊の旗艦となった戦艦「三笠」が製造されました。

 明治35年(1902)3月、完成した「三笠」はイギリスを発ち、スエズ運河を経由して日本に到着します。このとき、船底にはたくさんの砲身が積まれていました。これは国際法違反にあたりますが、それでも輸送したのは、当時の砲身の性能に問題があったからです。

 当時の艦砲は、200発ほど放つと摩耗して命中精度が落ちるので、必ず砲身を交換しなければなりませんでした。また、砲弾が砲身内で爆発する「腔発(こうはつ)」という事故が起こるおそれもありました。腔発が起きると砲身は使用不能になり、砲員が死傷するリスクがあり、大変危険でした。

 そこで山本は、対ロシア戦での砲弾の大量使用に備え、極秘で砲身を極秘に大量輸入したのです。イギリスは日本がロシアの抑え役になることを期待し、砲身を「三笠」に運び込ませましたが、これも日本とイギリスが同盟を結んでいたからこそ成せたことでした。

 また、日本海海戦でロシア海軍の主力となったバルチック艦隊(第2太平洋艦隊)は7カ月かけて極東まで向かいましたが、このときイギリスは植民地の港に艦隊が入るのを拒んでいます。バルチック艦隊は同盟国であるフランスの植民地からの補給を頼みにしていましたが、フランスはイギリスとの関係を重んじ、その結果、補給や修理がままならない航海を強いられたのです。

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大局を読むための世界の近現代史
長谷川慶太郎 著



長谷川慶太郎(はせがわけいたろう)
国際エコノミスト。1927年京都府生まれ。1953年、大阪大学工学部卒。新聞記者、雑誌編集者、証券アナリストを経て独立し、現在まで多彩な評論活動を展開している。この間、1983年に『世界が日本を見倣う日』(東洋経済新報社)で第3回石橋湛山賞を受賞するなど、政治・経済・国際情勢についての先見性にあふれる的確な分析を提示、日本経済の動きを世界的、歴史的な視点を含めて独創的に捉え続けている。『長谷川慶太郎の大局を読む』シリーズ(李白社)、『中国崩壊前夜 北朝鮮は韓国に統合される』(東洋経済新報社)、『大破局の「反日」アジア、大繁栄の「親日」アジア そして日本経済が世界を制する』(PHP研究所)など著書多数。近著は『大局を読むための世界の近現代史』(SBクリエイティブ)。