カルチャー
2014年12月8日
東京の地価「西高東低」は崩壊する!?
[連載] 不動産を買うなら五輪の後にしなさい【特別編】
話題の『日本の地価が3分の1になる!』を不動産鑑定士が読んでみた
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地価3分の1の根拠――人気の世田谷でも地価が63%下落していた!?


 『日本の地価が3分の1になる! 2020年 東京オリンピック後の危機』(光文社新書 三浦 展、麗澤大学 清水千弘研究室 著)という本が不動産業界で話題です。私も『不動産を買うなら五輪の後にしなさい』(SB新書)というタイトルの本を出版している関係から、知人にこの本を薦められ読んでみました。

 本書は4章に分かれており、人口減少と少子高齢化問題、同問題と地価の関係、同問題への対策、そして最後に東京を中心とした街の現状と将来予測で構成されています。

 私は自著で、不動産の価格は需要と供給によって決定され、人口減少と少子高齢化は需要の減少を意味していると述べているのですが、本書はこの問題について詳細な統計を基に深掘りしています。また、「現役世代負担率(生産年齢人口1人に対する老年人口の割合)」という切り口によって、各市町村の現状と将来の需要をよりシビアに算出しており、日本の地価は今後下がり続けるとの予測を打ち出しています。

 データを根拠にしているとはいえ、地価が現在の3分の1になると聞いて大げさに感じる方もいるでしょう。しかしながら、バブル期のピークと比べて現在の地価が3分の1程度に留まっている地域は珍しいことではありません。東京都世田谷区という、人気の地域であっても例外ではないのです。例えば、国土交通省が管轄している地価公示を調べてみると、世田谷‐5(世田谷区大原1丁目)では昭和63年に1平方メートルあたりの価格が1,400千円だったが、平成26年には520千円と63%も下落しています。
※参考URL: http://chika.m47.jp/datak-7286.html

 この現実を考えると、このまま放置していれば、地価は下落の一途を辿ることになるでしょう。そして、恐ろしいことに同問題は目に見える速度で進むのではなく時間をかけて徐々に、しかし確実に進行していき、気がついた時には取り返しのつかない事態に陥ってしまうことになるでしょう。

 そこで、同書では対策として、需要が減少した分を外国人の受け入れ拡大と生産年齢の延長によって補うことを提案しています。余談ですが、外国人の受け入れが避けられないとすると、不動産投資の観点からいえば、現状で不足している外国人向け賃貸住宅の分野が今後有望であると推測できます。

ハワードの田園都市構想を東京の西側地域で具現化してきた開発


 同書の中で、私が個人的に気になった箇所があります。それは、4章の最後の方に書かれている「今後は東京の東側は、西側を追い抜くとまでは言えないものの、かなり東西が対等になっていくように思えるし、東側地域の特定の地域の中には、これまでとは格段に存在感を増す地域も生まれるだろう。そういう逆転が今後の東京に起こるかもしれない。山の手だとか高級住宅地だとか言っていた地域の中でも多くの地域で地価が下がり、東側の、すべてではないが特定の地域の地価が上昇する可能性はあるだろう」という一文です。同書の主題からはやや遠く、言及もわずかではありますが、長期的に東京の地価を見通す中でとても重要な一文だと思います。

 東京の土地は「西高東低」だと言われています。つまり、東京では西側地域に人気が集中していることを表しているのですが、この現象はここ百年の間に形成された比較的新しい価値観であるに過ぎません。

 このころの東京は、旧江戸城である皇居を中心とした市街地でした。しかし、人口密集と、住宅不足などを原因とした劣悪な住環境が問題視されており、新しい居住空間の創出が求められていました。文明開化を経て、欧米列強に肩を並べるとまではいきませんが、ある程度の産業革命が実現された頃です。折しも産業革命により住環境の悪化していたイギリスでは、ハワードが田園都市構想を提唱していました。日本では欧米の動きにやや遅れながらも、内務省の職員がハワードやセネットの論文を紹介し、国家事業としての都市計画が正に萌芽の瞬間を迎えていました。こうして日本では、社会の要請として快適な居住空間が求められていたのです。そして、その舞台は既に市街地が形成されていた旧江戸地域ではなく、未開の地、すなわち東京の西側エリアだったのです。当時はまだ、新宿や渋谷などは田舎でした。

 未開の地にフロンティアを求めたのは新しい産業の鉄道会社でした。中でも、経済界の重鎮渋沢栄一が設立した田園都市株式会社(現東急電鉄)は、阪急電鉄総帥である小林一三から経営アドバイスを受け、五島慶太が番頭となり、渋谷をターミナルとした沿線を開発していったのです。第二次世界大戦により停滞しますが、戦後公職復帰した五島を中心として、農地や山林を切り開いた新興住宅地域が次々と開発されていくのです。






不動産を買うなら五輪の後にしなさい
不動産鑑定士がこっそり教える売買のコツ
萩原 岳 著



萩原 岳(はぎわら がく)
千葉県生まれ。東京外国語大学中国語学科卒業。株式会社アプレ不動産鑑定 代表取締役。不動産鑑定士。在学中より不動産鑑定業界に携わり、2007年不動産鑑定士論文試験合格、2010年不動産鑑定士として登録する。数社の不動産鑑定士事務所勤務を経て、2014年株式会社アプレ不動産鑑定を設立し、現職。相続税申告時の不動産評価など税務鑑定を専門とし、適正な評価額の実現を掲げ、相続人と共に「戦う不動産鑑定士」として活動する。また、実務で培った経験をもとに、「相続と不動産」について税理士、弁護士、不動産鑑定士など相続の実務家を相手とした講演活動も行っている。
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