ビジネス
2015年1月8日
なぜクラウドは低コストなのに、インテグレーターと企業の双方にメリットがあるのか
[連載] ジャカルタで働く社長のコラム【4】
文・中村 けん牛/協力・吉政 忠志
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前回は「ソフトウェアの工業化がSIビジネスの未来を拓く」というタイトルで、WordPressが本来の意味でのソフトウェアの工業化を実現し、IT業界における部品メーカー、設計者、構築者の分業を実現することで、業界全体の人材育成コスト、構築コストの圧縮などに好影響を与えると書きました。これにより、システム・インテグレーターが低コストで高適正利潤のビジネスを実現できるようになるため、ユーザ企業もその恩恵を受けることになります。今回は、「インドネシアに見るITビジネスの将来像」の第3弾として、WordPressのようなOSSを活用したクラウド・インテグレーターが本格化すると、日本市場に特有な商習慣である流通多段階構造が崩壊し、インテグレーターおよびユーザ企業が、さらなる恩恵にあずかることができる、という話を書きます。


IT業界に残る古い商慣習 ~流通多段階構造~


 日本のIT市場は、世界でも珍しい多段階流通構造を持っています。メーカーからディストリビューター(流通会社)へソフトウェアライセンスやハードウェアが卸され、そこで在庫保管されつつ、一次販売店や二次販売店が必要なときに直接ユーザ企業に販売したり、二次販売店にさらに卸します。
 いまのようなインターネットが普及していない時代や、IaaSやPaaSのようなサーバ環境やネットワーク環境をクラウドで利用できなかった時代は、ビジネス効率の観点から流通在庫を持つ会社が必要でした。また、流通在庫を持つという考え方は日本では普通に行われていた古くからの商慣習でもあります。そしてこれらがそのままIT市場でも根付きました。

 昔はサーバが必要であれば物理的にサーバを購入して構築しなければならなかったので、より短納期でシステムを構築するためには流通在庫を持つ流通会社の役割が重要でした。しかし、いまは違います。誰もが当たり前のようにインターネット上でサーバ環境を構築でき、構築ノウハウがあれば、そのうえでシステムを構築することもできます。
 そのような時代背景に登場したのが、クラウド・インテグレーターという考え方です。

低コストで高利潤、「クラウド・インテグレーター」の登場


 いままでは、システム・インテグレーターがユーザ企業の要件を満たしたシステムを構築するために、サーバとソフトウェアライセンスを流通会社から購入してきて、それらをインテグレーション(統合)してシステムを構築、納品してきました。一方で新しい業態であるクラウド・インテグレーターは、クラウドを提供しているサービスプロバイダーから直接クラウドを購入したり、自身でクラウドを運営し、お客様に直接販売します。これにより、利用するユーザ企業には以下のメリットがあります。

1. 短納期でサービスを利用できる(納品の物理的な日数がかからず、在庫切れもないため)
2. 低コストでサービスを提供できる(流通会社の中間マージンが発生しませんし、クラウド側はサーバが集約されているため低コストで利用できます)
3. ユーザ企業は利用したい分だけの使用料を支払うため、資産を持たずに済む

 ここで皆様にお聞きします。
 上記の特長を持ったクラウド・インテグレーターのサービスとシステム・インテグレーター、どちらが市場優位だと思いますか? 技術力と販売力が同じであれば、クラウド・インテグレーターは市場競争力において優位です。クラウド・インテグレーターは短納期と低コストを実現しやすいため、ユーザ企業に対する競争力が高いのです。

 さらに、システム・インテグレーターとクラウド・インテグレーターでは業績に対する考え方も違います。システム・インテグレーターはシステムを構築した対価を一括でユーザ企業にお支払いいただきますが、クラウド・インテグレーターはユーザ企業から「毎月の利用料金」をお支払いいただきます。それゆえ後者は「ストックビジネス」と呼ばれており、ユーザ企業が使い続ける限り毎月売上が上がります。前者はシステムの対価を一括でユーザ企業が支払うため、一時的な売上金額は高いですが、継続的な売上を上げるのに苦労します。このことから、システム・インテグレーターは以下の理由により金額を上乗せしてユーザ企業に請求し、利潤を確保しなければなりません。

1. 毎月の売上額が一定化しないため、資本力を増強したり、利益を一定額プールしておく必要がある。
2. サーバなどの機材を購入し、システムを構築して納品後にユーザ企業から入金があるため、機材購入のための資金をあらかじめ確保しておく必要がある。

 上記のように、ユーザ企業からシステム構築対価を一括でいただくために、準備しておかなければいけない資金が発生するのが、システム・インテグレーターの基本的な運営方法なのです。この準備金のほとんどが、ユーザ企業からいただく売上金額でまかなわれています。

 一方、クラウド・インテグレーターは、システムを構築するためのサーバやソフトウェアライセンスを一括で購入するのではなく、毎月のクラウド使用料金をクラウドベンダーに支払うため、高額な準備金のようなものが発生しにくいです。よって、従来のシステム・インテグレーターのように高額な準備金を用意する必要がないのです。
 これらはすべてユーザ企業に対する販売金額に跳ね返ってきます。それゆえ、クラウド・インテグレーターはシステム・インテグレーターと比較して流通多段階構造ではない点や、売上の構造の違いで、低コストで高利潤なサービスを提供できるのです。

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本格ビジネスサイトを作りながら学ぶ WordPressの教科書2
スマートフォン対応サイト編
プライム・ストラテジー株式会社 著



【著者】中村 けん牛
プライム・ストラテジー株式会社 代表取締役。
早稲田大学法学部卒、会計士補。大手証券会社を経て、2002年、プライム・ストラテジー株式会社設立。2005年、ジャカルタにプライム・ストラテジー・インドネシアを設立して以来9年間、ジャカルタでのITビジネスに携わる。執筆した書籍『WordPressの教科書』シリーズは日本、韓国で累計3万部突破のベストセラーに。2015年2月には、SBクリエイティブより『本格ビジネスサイトを作りながら学ぶ WordPressの教科書 Ver4.x対応版』を出版の予定。

プライム・ストラテジー株式会社
http://www.prime-strategy.co.jp/


【協力】吉政 忠志
プライム・ストラテジー株式会社 マーケティングアドバイザー
吉政創成株式会社 代表取締役