カルチャー
2015年2月3日
『必殺シリーズ』から見る"首"が大事なワケ
[連載] 体の不調は「首こり」から治す、が正しい【7】
文・三井 弘
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ドラマや映画に見る首がとっても大事な理由


 ドラマや映画の暴力シーンでよく見かけるように、首を締められたり、刺されたり、強く叩かれたりするとたちまち命の危機を招きます。

 たとえば、頭をネクタイでどれほど締められても命を落とすことはありませんし、お尻をナイフで刺されても、まず死に至るということはありません。
 背中を10回強く叩かれたところで、ひどい苦痛は覚えるものの、それによって命をなくすということは滅多にないでしょう。

 でも首にやられたら、たちどころにアウトです。たった1回の攻撃、1本のネクタイで命が危険にさらされます。
 無防備で脆い首は、人体にとっての最大の急所と言ってよいのです。

 少し横道に逸れますが、かつて『必殺シリーズ』というテレビドラマがありました。殺しを請け負う仕事人の一人が、悪者の首の後ろに長い針を刺し込む方法で息の根を止めていましたが、これは荒唐無稽な作り話ではありません。

 刺している位置は、ちょうど第一頸椎のあたり。細い針であろうが、ここを刺されて脊髄の機能が止まってしまうと、呼吸ができなくなり窒息死に至ります。
 しかも意識はしっかりあるまま、ゆっくり呼吸ができなくなっていきます。悪事に対する制裁とはいえ、少々悪人に同情したくなる殺され方です。

 話を戻しましょう。血管、気管、食道の集まる首にトラブルがあれば、脳や心臓への血流は悪くなり、呼吸が苦しくなり、モノも食べにくくなって、健康に大きな支障が出ることは容易に想像がつきます。

 また、体の不調や異常も首のところで感知ができます。喉につかえて食べ物が入っていかない、吐き気がこみ上げる、声が出ない、息が苦しいなどがあれば、体のどこかが悪いか調子がおかしくなっているとわかりますね。
 こうしたバロメーターのような役割も首にはあるのです。

 実にデリケートで、かつ非常に大事な場所であることが理解していただけるのではないかと思います。

脊髄の障害が体の機能不全をもたらす


頸椎の横断面図
(c)辻 聡 ※クリックすると拡大

 そして何より首が大事な理由、それは「脊髄(せきずい)」をはじめとする神経系の存在です。
 前述しましたが、「脊髄」とは全身に張り巡らされた何億もの神経が一つに束ねられたもの。いわば頭と全身とをつなぐ、情報伝達のネットワークケーブルです。

 脊髄の通り道となっているのが、頸椎の中を貫く「脊柱管(せきちゅうかん)」で、その太さは15~16ミリと手指の太さ程度しかありません。この細い管の中を、人体の基幹ネットワークが走っているということになります。

 もし何らかの要因で、この基幹ネットワークが損傷を受けたらどうなるでしょうか。
 脳からの指令は、脊髄を通って全身の各臓器・器官に伝達され、反対に体が受けた刺激や感触、痛みも脊髄を通って脳に伝えられています。
 脊髄の損傷は、この情報伝達が遮断されてしまうことを意味します。

 そうなると体の機能は不全となります。
 手足はおろか、首から下のあらゆる筋肉が動かせなくなってしまう。体からの感覚が失われ、モノを飲み込むことも排泄すらも自力では難しくなってしまう。
 最悪の場合は、肺や心臓などの臓器も動かなくなり、生命活動がストップしてしまう。
 脊髄の損傷は、このような事態を招くことになるのです。

 とはいえ、そこまでの事態はそう滅多に起こりません。首部分の神経系のトラブルとしては、むしろ「神経根」と呼ばれる場所の障害のほうが多いでしょう。

 神経根は、各頸椎の左右から伸びている一対の神経の枝です。要は、脊髄から枝分かれして、手や肩、後頭部へと広がっている神経です。
 川に例えれば、利根川のような大きな川が脊髄で、そこから枝分かれして流れている支流が神経根と考えていただくとわかりやすいと思います。

 神経根に障害が起こると、首トラブルの患者さんの多くが訴えるつらい肩こりや痛み、手のしびれ、後頭部の頭痛といった症状につながります。すなわち首からくる神経系の不調は、ほとんどが神経根の障害と言えます。

 ここに問題があっても、脊髄の障害のような重篤な状態がすぐに引き起こされるわけではありません。
 しかし、だからと言って我慢や放置は禁物です。

 支流の流れが滞れば、必ずいつかは本流にも悪影響があります。神経根に起こった問題を放置しておくと、いずれは脊髄にまで障害が及びます。
 ですから神経根のトラブルの段階で対処しておく必要があるのです。

(第7回・了)
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体の不調は「首こり」から治す、が正しい
三井 弘 著



三井 弘(みつい ひろし)
1943年、岡山県岡山市生まれ。1970年、東京大学医学部を卒業。同整形外科入局。1977年より三井記念病院勤務。1984年「三井式頚椎手術器具」を開発。三井記念病院整形外科医長を経て、現在、三井弘整形外科・リウマチクリニック院長。専門分野は脊椎、関節(人工関節)。日本リウマチ学会評議員。著書に『体の痛みの9割は首で治せる!』(角川SSC新書)、『首は健康ですか?』(岩波アクティブ新書)など多数。