カルチャー
2015年3月17日
なぜ『艦これ』は、「ガチャ」に頼らずにマネタイズに大成功したのか
文・徳岡正肇
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日本では、ゲームが今どのような状態にあり、どこへ向かおうとしているのか。ゲーム業界について鋭く論じた2月刊行の『ゲームの今』から、『艦これ』のヒットで改めて注目され始めているブラウザゲームの変遷と、そのマネタイズ構造について見ていこう。


ブラウザゲームの歴史


 ブラウザゲームは1990年代後半にフリーゲームとしてヒット、その後ShockwaveやFlashといったプラグインを利用したゲームも登場し、ブラウザ上でも多彩な表現ができるようになっていった。最初の転機は、1999年に海外でリリースされた『oGame』で、この作品は多人数参加型の基本無料オンラインゲームとしてブレイクした。

 同じ頃、日本では「ハンゲーム」がサービスを開始(2000年)。麻雀や将棋、トランプゲームなど、カジュアルなゲームをブラウザ上でオンライン対戦できるサービス(基本無料)として、ユーザー数を伸ばしていった。

 日本においてブラウザゲームの決定的な転換点となったのは、2009年にVectorがサービスを開始した『ドラゴンクルセイド』である。当時、日本でもMMORPGのF2P(Free to Play)化・アイテム課金化は進んでいたが、『ドラゴンクルセイド』はそういった基本無料MMORPGをプレイしていなかった層にアピールしたと言われる。このため「ゲームを遊ぶためにはお金を払うものだ」という意識を持つプレイヤーも多かったと思われ、課金率も高かった。

 『ドラゴンクルセイド』の成功以降、ブラウザゲームは急激に普及していく。Vectorを筆頭にブラウザゲームのポータルがいくつも成立し、次々に新タイトルのローカライズや開発が行われていった。『ドラゴンクルセイド』と同じ2009年にVectorのブラウザゲーム・ポータルでサービスが始まった『ブラウザ三国志』もまた、大きなヒットとなった作品である。

 こうして一気に巨大なブームとなったブラウザゲームだが、2009年のうちに、次のムーブメントが発生する。mixiでサービスが開始された『サンシャイン牧場』である。

 『サンシャイン牧場』は、それまでのブラウザゲームの主流と異なり、攻撃性をほぼ有さない作品であり、またプレイヤーから見える「他の『サンシャイン牧場』プレイヤー」は、mixiというSNSのフレンドに限定されていた。このため、攻撃的なブラウザゲームで普遍的に発生していた「誰とも知らない高額課金者に、ゲーム開始から1ヶ月ほどで蹂躙される」という展開は、『サンシャイン牧場』では起こりえなかった。この特徴は、当時一般的だったブラウザゲームが加熱すればするほど、逆に顕著なアピールポイントとなった。

 また、2007年からは、フィーチャーフォンをプラットフォームとして、GREEが『釣り★スタ』のサービスを開始している。『釣り★スタ』は、2010年にはユーザー数1500万人に拡大。2009年にサービスが開始されたDeNAの『怪盗ロワイヤル』ともども、モバイルソーシャルゲームのブームを作り上げていく。

 そうやって、モバイルソーシャルゲーム人気が加熱していく中で、「これまであまりゲームをしてこなかった人にアピール」「高性能なPCでなくてもプレイ可能」「スキマ時間に楽しめる」「基本無料のオンラインゲーム」といった特徴をセールスポイントにしていたブラウザゲームは、市場を縮小していくことになった。

『艦隊これくしょん』の衝撃


 上記のような市場の状況に加えて、PCブラウザゲームで一般的に用いられるFlashを、スマートフォンがサポートしなくなったことから、ブラウザゲームに対する未来観測は、悲観的なものになりがちだった。ノートPCの出荷台数が右肩下がりになり、タブレットPCがノートPCを台数で追い抜くといった数値は、ことごとく、この予測を強化する材料となった。

 だが2013年にリリースされた『艦隊これくしょん』は、Flashで駆動するブラウザゲームという、上記の状況を鑑みると、非常に不利な動作環境でありながら、やがて社会現象とも言える大ヒットへとつながっていく。

 『艦隊これくしょん』は、太平洋戦争期に活躍した旧日本海軍の艦艇を女子に擬人化したゲームで、プレイヤーは「提督」として彼女たちを集め・編成し・鍛え、敵艦隊(深海棲艦と呼ばれる)と戦うことになる。2015年現在、ユーザー数は200万人超と発表されているほか、コミカライズ・ノベライズ・アニメ化など、マルチメディア展開の基本ともいえるルートを辿っている。マネタイズとしては、基本無料・アイテム課金という、ブラウザゲームでは標準的な手法である。

 『艦隊これくしょん』のビジネスモデルは、リリース当初は、「ゲームそのものの収益ではなく、関連グッズや各種ライセンスでマネタイズする」ことが目標であると語られていた。だが蓋を開けてみると、ゲームからの収益が総収益の90%近くとなっており、『艦 隊これくしょん』がゲームビジネスとして単独で成立していることが明らかになった。

 だが『艦隊これくしょん』は、マネタイズモデルにおいて、これまでのF2Pゲームとは若干異なるモデルを有してることには、注意が必要だ。

 従来――特にF2Pのモバイルソーシャルゲームにおいては――収益の中心は「ガチャ」と「消費アイテム」にあった。プレイヤー視点で言うと、前者は戦力強化(およびコレクションの充実)、後者は望むタイミングでより長くプレイするための消費財である。この構造に対し、さらに団体戦の仕様を組み込むことで、ユーザー間で課金意欲を向上させるというのが、従来の一般的なマネタイズモデルだった。

 だが『艦隊これくしょん』は、この図式に乗っていない。具体的には、

(1)「ガチャ」の比重が低い
ガチャを回すために必要となるリソースは、たとえログインしていない状況においても自然回復する資源として提供されている(あるいはゲームをプレイすることで獲得できる)。課金して資源を購入する必然性は、モバイルソーシャルゲームに比較し、極めて小さい。

(2)消費アイテムの必然性が低い
消費アイテムは存在するが、ゲーム上、数個で強烈な効果を持つアイテムとして設定されており、大量消費するような設計にはなっていない。またそれらのアイテムは、ゲームをプレイすることによっても入手できる。

(3)ユーザー間で競争する要素が薄い
『艦隊これくしょん』は、オンラインゲームではあるが、ほぼシングルプレイのゲームとしてデザインされている。他のプレイヤーと競争する要素は、皆無ではないが、それほど重要ではない。他のプレイヤーと協力する要素に至っては、2015年1月現在においては、皆無である。

 このように、モバイルソーシャルゲームのマネタイズ文法から見ると、「課金要素がない」と言い切れるレベルで、異なるマネタイズ・モデルを有している。



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徳岡正肇 編
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