カルチャー
2015年3月30日
睡眠リズムにまで影響を与えていた! いま注目の「腸内フローラ」
[連載] 病気を防ぐ「腸」の時間割【2】
文・藤田紘一郎
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健康も睡眠も「腸内フローラ」のバランスが大事


 睡眠の話をするときに欠かせないのが「メラトニン」です。
 メラトニンは脳内ホルモンの一つであり、朝陽を浴びると分泌が抑えられ、その約15時間後に分泌量が多くなることによって、人は眠気が強くなります。

 メラトニンがしっかり分泌されていれば、睡眠の満足度が高まり、朝も気持ちよく起きられるようになります。加えて、メラトニンは抗酸化作用が高く、「若返りホルモン」とも呼ばれています。

 メラトニンは脳内で分泌されるホルモンですが、材料となる前駆体(ぜんくたい)は腸でつくられています。
 メラトニンは、タンパク質から合成されます。タンパク質は、腸内にてアミノ酸に分解されます。アミノ酸はあらゆる細胞をつくる材料となる栄養素です。また、ホルモンや消化酵素などもアミノ酸からつくられます。

 人の体は20種類のアミノ酸を必要としていて、いずれかが不足すれば体に変調をきたすことになります。この20種のアミノ酸のうち、体内で合成できないものを「必須アミノ酸」と呼び、食べ物から取り入れることが不可欠となります。

 必須アミノ酸は、肉や魚、卵、大豆、乳製品などタンパク質の多い食品に豊富です。しかし実際には、これらを毎日食べているだけでは、必須アミノ酸は得られません。必須アミノ酸の生成には、腸内細菌の働きが欠かせないからです。

 私たちの腸には、およそ1000兆個、3万種もの細菌が棲みついています。それを総称して腸内細菌と呼びます。

 腸内細菌には、体によい働きをしてくれる「善玉菌」がいれば、異常繁殖すると悪さをする「悪玉菌」もいます。腸内環境がよいときには体によい働きをするのだけれど、腸内環境が悪化すると毒性を強める「日和見菌」もいます。

 これらの細菌たちは、腸内にて勢力争いをしながら仲間たちでコロニー(細胞塊)をつくっています。その姿を顕微鏡でのぞくと、まるでお花畑のように美しいことから、コロニーの集まりを「腸内フローラ」と呼びます(「腸内フローラ」については4月16日刊行の『病気を防ぐ「腸」の時間割』(SB新書)の中でもふれていますので、ぜひご一読ください)。

腸と睡眠リズムの深い関係


 腸内環境は、腸内フローラの多様性が豊かなほどよいものとなります。メラトニンの生成量も増えます。これはなぜでしょうか。

 必須アミノ酸が分解される際、ビタミン群が使われます。そのビタミン群を合成してくれるのが、腸内細菌たちなのです。

 みなさんは、ビタミンを含む食べ物をとれば、ビタミンを摂取したことになると思っているかもしれません。
 しかし、そうではないのです。

 ビタミンの豊富な野菜や果物、あるいはサプリメントをとったところで、腸内フローラが貧弱な状態であれば、ビタミンの吸収量は著しく減ります。食べ物からビタミンを取り出して合成し、体に送り込んでいるのが、腸内細菌たちだからです。

 タンパク質は、ビタミンCの力を借りてアミノ酸に分解されます。メラトニンの材料となるのは、トリプトファンという必須アミノ酸です。

 トリプトファンは、葉酸やナイアシン、ビタミンB6などのビタミン群の作用を得てセロトニンの前駆体をつくります。これが腸から吸収されて脳に送られると、脳の松果体にて、セロトニンを経てメラトニンへと合成されるのです。

 こうした理由から、メラトニンの合成には、腸の健康がとても大事であることがわかります。腸が元気であれば、腸内フローラが豊かに保たれ、ビタミン群の合成力が高まります。その状態のときに、肉や魚、卵など良質なタンパク質が入ってくると、メラトニンの分泌量を増やせるのです。

 なお、メラトニンの前段階であるセロトニンは、人間の精神面に大きな影響を与える神経伝達物質で、心のバランスを整える作用があります。
 私たちの心が「幸せだなあ」という感情で満たされるのは、セロトニンが脳内で放出されているおかげです。

 セロトニンの分泌量が増えれば、メラトニンの量も多くなり、睡眠のリズムが整います。反対に、セロトニンの分泌量が減ると不安感が強まり、不眠状態が続くようになります。

 うつ病の患者さんは、セロトニンの分泌量が著しく減っていることがわかっています。また、うつ病を発症する前段階には、決まって不眠症があるものです。

 このように腸が元気であれば、メラトニンの合成量が増え、睡眠と覚醒のリズムが整い、熟睡できるようになります。加えて、人の幸福感も高まるのです。

(了)
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病気を防ぐ「腸」の時間割
老化は夜つくられる
藤田紘一郎 著



藤田紘一郎(ふじたこういちろう)
東京医科歯科大学名誉教授。昭和14年中国旧満州生まれ。三重県育ち。東京医科歯科大学医学部卒業。東京大学大学院にて寄生虫学を専攻。テキサス大学で研究後、金沢医科大学教授、長崎大学医学部教授を経て、昭和62年より東京医科歯科大学教授。専門は寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学。日米医学協力会議のメンバーとして、マラリア、フィラリアなどの免疫研究の傍ら、「寄生虫体内のアレルゲンの発見」「ATLウイルスの伝染経路の発見」など多くの業績をあげる。日本寄生虫学会賞、講談社出版文化賞、日本文化振興会社会文化功労賞および国際文化栄誉賞受賞。著書に『笑うカイチュウ』(講談社)、『清潔はビョーキだ』(朝日新聞社)、『脳はバカ、腸はかしこい』(三五館)、『腸をダメにする習慣、鍛える習慣』『人の命は腸が9割』(以上、ワニブックス)、『体がよみがえる「長寿食」』(三笠書房)など多数。