カルチャー
2015年4月8日
食べ物の原材料表示、あなたが納得する表示方法はどれ?
[連載] 有機野菜はウソをつく【5】
文・齋藤訓之
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卵黄の代わりにカボチャをつかったオムレツをどのように説明すべきか


 もう1つの思考実験は、オムレツを焼く実験です。

 業務用食材に、カボチャのピュレというものがあります。加熱したかぼちゃを裏ごししてペースト状にし、パウチ包装したものです。パンプキンパイやカボチャのプリンなどを作るのに重宝するものですが、ある食品卸の会社でその黄色い色を活かす面白い使い方を教わりました。

 ホテルなどでは料理や製菓で卵の黄身ばかり使って、白身が大量に余ることがあります。そこで、その卵白にカボチャのピュレを適量混ぜてフライパンで焼くと、なんと不思議なことに普通に作ったオムレツそっくりに出来るのです。見た目だけではありません。食べてみても、とくにカボチャの風味を感じることもなく、おいしいオムレツそのものでした。

 それで、そうして作ったオムレツを、朝食バイキングなどで提供してはどうかという説明でした。では、実際にブッフェテーブルに並べるとき、どのように陳列するのがよいでしょうか。

(1)何ら説明書きを付けず、商品だけ陳列する。
(2)「オムレツ」と表示して陳列する。
(3)「卵黄不使用。卵白とカボチャで作ったオムレツ」と表示する。
(4)(3)に加えて、卵黄を使わない分、脂肪とカロリーが抑えられることを根拠に「ヘルシーなオムレツ」と表示する。
(5)(3)に加えて、「余った卵白を有効活用しています」と表示し、環境や食品を大切に扱っていることをアピールする。
(6)(4)と(5)の複合。

 (1)の場合、カボチャのピュレを使った、普通のオムレツではないオムレツだと気付く人はいないでしょう。また、外食では原材料表示義務は免除されていますから、違法とは言えないでしょう。

 (2)の場合は問題があるかもしれません。というのは、オムレツは「卵黄と卵白を分離していない全卵を使って作るものである」のが常識と認められれば、卵黄を使っていないものについて「オムレツ」と表示することは虚偽なり優良誤認なりであると、消費者庁等から指摘を受ける可能性があります。

 実はそれは(1)にも潜む微妙な問題です。「卵黄不使用」である旨の断り書きをつけないこと自体が不誠実であるということになりかねません。ですから、(1)(2)共に、仮に消費者庁等から指摘を受けなかったとしても、その製法が何らかの事情で公になった場合には、消費者が抱くそのホテルのイメージは傷つき、批判を受けることになるでしょう。

 その意味で、(3)は嘘のない、誤解を招かない、誠実な表示を行っており、経営上安全な提供方法だと言えます。

 (4)(5)(6)は、その誠実さを発揮した上で、それを選びたくなるプラスの情報を加えています。しかし、人によっては、「余り物を使った、本来のオムレツではない代物なのに、本物よりよいように表現することには賛成できない」という意見の人もいるでしょう。その意見を友人知人に触れ回り、あるいはインターネットで拡散して、ホテルのイメージを悪くすることもあるかもしれません。

 では、(3)~(6)のどれを採用すべきか。これに正解はありません。そのホテルとお客の関係の中で、どうすべきかをその都度考えるしかないでしょう。

 ここで確認していただきたいのは、科学的、法律的に問題がなくとも、印象の与え方、イメージの抱き方は、まったくケースバイケースであるということと、そのようにあいまいな要素が、商品の売れ行きや販売者の印象に大きな影響を及ぼし得るはずだということです。

「有機農産物」=「安全」という訴求は、欧州では禁止されている


 そこで「有機農産物」という表示です。「有機農産物」であることが、人体や環境にどのような影響があるものかは科学的には何とも言えないとしても、今日までのところ消費者がそれによいイメージを抱いているのだとしたら、容易に引っ込められるものではなさそうだと気付くのです。

 その一方、「有機農産物」と「安全」を結び付ける訴求は明らかに誤りであり、ヨーロッパでは禁止されている表示ですし、日本でも本来は消費者庁が問題にし得るものと考えておくべきです。「有機農産物」と「健康」を結び付けることはどうでしょうか。これも、明らかに関係があると科学的に証明されない限り、本来は避けるべき訴求です。

 それで、有機農産物は安全や健康と関係ありませんでしたと、わざわざ宣伝する必要はないでしょうが、今後は健康や安全に結び付けて訴求することは謹むべきでしょう。

 訴求し得るのは、環境への配慮です。ただし、環境への影響の評価というのは関係する要素が多すぎて、明確に訴えられる事実というのは少ないのが実際です。ですから、もし「有機農産物」と「環境」を結び付ける訴求を行うとしても、伝えて問題ないのは、生産や流通にかかわる人・団体・企業の考え方と思いだけです。それをありのままに伝え、共感を得られるかどうかが勝負ということです。

(了)





有機野菜はウソをつく
齋藤訓之 著



齋藤訓之(さいとうさとし)
1964年北海道生まれ。中央大学文学部卒業。市場調査会社勤務、「月刊食堂」(柴田書店)編集者、「日経レストラン」(日経BP社)記者、日経BPコンサルティング「ブランド・ジャパン」プロジェクト責任者、「農業経営者」(農業技術通信社)取締役副編集長兼出版部長を経て独立。2010年株式会社香雪社を設立。農業・食品・外食にたずさわるプロ向けのWebサイト「Food Watch Japan」( http://www.foodwatch.jp/ )編集長。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。亜細亜大学経営学部非常勤講師。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。著書に『農業成功マニュアル「農家になる!」夢を現実に』(翔泳社)、『食品業界のしくみ』(ナツメ社)、共著に『創発する営業』(上原征彦編、丸善出版)ほか。
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