カルチャー
2015年4月13日
体内時計が乱れると腸に穴があくって本当?
[連載] 病気を防ぐ「腸」の時間割【3】
文・藤田紘一郎
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腸に穴があくと健康を守れなくなる


 現在、日本人の約7割がリーキーガット症候群になっているだろう、と推計している研究者もいます。腸に穴があけば、全身に不調がもたらされます。前述の症状に思い当たる点のある人は、少なくないでしょう。

 人間の腸は、消化吸収と排泄を繰り返すだけの器官ではありません。私たちが病気を遠ざけ、老化を避けて生きていくために、いちばん大事な臓器は腸だと、私は考えています。

 腸は、健康とアンチエイジングの源です。心身ともに健康のまま長生きするには、腸が元気になる生活を送ることです。

 では、健康と若々しさをつかさどる腸とは、どのような働きを持つ臓器なのでしょうか。主なものを挙げましょう。

◎消化吸収
◎排泄
◎免疫力の増進(免疫の主な働きは「感染予防」「健康維持」「老化予防」)
◎ビタミンの合成
◎解毒(有害物質の侵入をブロックして、肝臓の負担を軽減する)
◎脳内ホルモン「幸せ物質」の前駆体をつくり、脳へ送る
◎うつ病や自律神経失調症の予防
◎アレルギー疾患の予防と改善
◎がんの予防と改善

 これほど重大な役割を担う腸ですから、その働きは過酷です。過酷ゆえに、とても老化しやすいのです。

 全身の細胞は、たえず新旧入れ替わりながら、機能を保っています。これを新陳代謝といいます。

 新陳代謝のスピードは、臓器によって異なります。全身の中で、新陳代謝のスピードがもっとも速いのは、腸です。なかでも、小腸粘膜細胞の寿命は短かく、わずか1日で入れ替わっています。働きが過酷なために粘膜細胞が疲弊しやすく、常に新しいものへと生まれ変わる必要があるのです。

 腸に穴があきやすい原因はここにあります。新陳代謝がリズムよく行われなくなると、腸の粘膜細胞の再生がうまくいかなくなります。古い細胞はどんどん死んでいくのに、新しい細胞の再生がそのスピードに追いつかなくなるのです。

 新陳代謝のリズムは、細胞核内に納められた時計遺伝子がコントロールしています。この時計遺伝子を統率しているのが、体内時計です。

 ノースウェスタン大学とラッシュ大学の研究チームは、体内リズムを人工的に狂わせたハツカネズミはリーキーガット症候群になりやすいことを、実験により証明しています。ここにアルコールが加わると、状態がさらに進行するということです。

 体内時計を狂ったままにしておくことは、自ら命を縮めることに他なりません。私たちの健康の源である腸を傷つけ、劣化させることになるからです。
 (リーキーガット症候群については、4月16日発売の『病気を防ぐ「腸」の時間割』(SB新書)で解説していますので、ぜひご一読ください)

(了)





病気を防ぐ「腸」の時間割
老化は夜つくられる
藤田紘一郎 著



藤田紘一郎(ふじたこういちろう)
東京医科歯科大学名誉教授。昭和14年中国旧満州生まれ。三重県育ち。東京医科歯科大学医学部卒業。東京大学大学院にて寄生虫学を専攻。テキサス大学で研究後、金沢医科大学教授、長崎大学医学部教授を経て、昭和62年より東京医科歯科大学教授。専門は寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学。日米医学協力会議のメンバーとして、マラリア、フィラリアなどの免疫研究の傍ら、「寄生虫体内のアレルゲンの発見」「ATLウイルスの伝染経路の発見」など多くの業績をあげる。日本寄生虫学会賞、講談社出版文化賞、日本文化振興会社会文化功労賞および国際文化栄誉賞受賞。著書に『笑うカイチュウ』(講談社)、『清潔はビョーキだ』(朝日新聞社)、『脳はバカ、腸はかしこい』(三五館)、『腸をダメにする習慣、鍛える習慣』『人の命は腸が9割』(以上、ワニブックス)、『体がよみがえる「長寿食」』(三笠書房)など多数。
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