スキルアップ
2015年4月22日
なぜ今ブーム? 世界の大問題が読み解ける「地政学」
[連載] 「逆さ地図」で読み解く世界情勢の本質【1】
文・松本利秋
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人類の旅と地図


人類の旅──グレートジャーニー (c)フレッシュ・アップ・スタジオ 無断転載を禁ず ※クリックすると拡大

 人間は昔からさまざまな社会的理由によって、住む場所を移動したり、旅をしたりする動物であった。

 700万年の昔、アフリカに誕生した人類が、ホモサピエンスに進化し、10万年前にはアフリカのリフト・バレーからユーラシア大陸を通って、アメリカ大陸にまで拡散していった約5万3000キロの行程を、イギリス人の考古学者ブライアン・M・フェイガン(Brian M. Fagan)は「グレートジャーニー(The Great Journey)」と名付けた。人類が現在、南極大陸を除いた全大陸に住んでいるのも、このような祖先の旅があったからだ。

 人類がアフリカを出て地球規模の大旅行をするのは、当時のアフリカ大陸で気候の大変動があり、十分な食料を確保できなくなったのが大きな原因だとされている。

 後世になっても、ある者はより住みよい環境を求めて、またある者はより多くの富の機会を求めて、移民になったり、引っ越しをしたりで旅をする。また、ある者は自身の仕事の疲れを癒やすために旅行をする。そうした場合、何よりも地図は欠かせない必需品である。

 このように考えると、人類が地図を描き始めた時期は古く、おそらくは有史以前にまで遡らなくてはならないだろう。それだけ人類と地図との関係は長くて深く、地図は人類が生き永らえるのに必要な情報源だったのだ。

植民地獲得競争とともに発達した「地政学」


 いわゆる近代科学としてのさまざまな概念や、データが整備された科学としての地理学が出来上がり、一般に知られるようになったのはだいたい100年ぐらい前の時代で、国際関係論が成立するのとほぼ同じ時期だ。そして地図が整備されるにつれて国際関係論も完成度が増してきたのである。

 当時は、今で言う冒険家や探検家などにも地理学者が多かった。というよりも、地理学者は必然的に冒険家や探検家のようであった。

 何しろ、地理学というのは実際の現場がどのようになっているのかを調べることから始まるから、まず現地に行って調査をすることが大切なのだ。従って地理学者の仕事が前人未到の未知の土地への冒険や探検となったのも当然のことだ。

 そして19世紀頃からヨーロッパの、特にドイツやイギリスの大学で地理学が、ようやく正規の講義科目として認定され始めた。これらの国々では15世紀の大航海時代(15世紀半ばから17世紀半ばまで続いた、ヨーロッパ人によるインド・アジア大陸・アメリカ大陸などへの植民地主義的な海外進出をいう。主に西南ヨーロッパ人によって開始された)から、19世紀から20世紀にかけての帝国主義(領土や天然資源などの獲得のために、軍事力を背景に他の民族や国家を侵略し、さらにそれを推し進めようとする思想や政策)時代にかけて、国家的規模で収集された世界の諸地域に関する地理的な知識が整理され、これを地理学として体系化する動きが活発になってきたからだ。

 先に挙げたイギリスとドイツでは、19世紀から20世紀にかけて相互の利害関係が交錯し植民地獲得競争が激しかった。それに加えて、当時の新興国アメリカが南北アメリカ大陸やカリブ海の覇権を求めてヨーロッパ各国と対立。互いに自国の利益を確保する戦略を立てるために、地理的な条件が国家に与える政治的、軍事的影響をグローバルな視点で見ていく学問が出来上がってきた。それが地政学と呼ばれるものである。

古くて新しい学問「地政学」


 国家と国家は、いくら対立しているとしても、互いに引っ越すことはできず、地理的な条件は変えることができない。しかし、地理的な条件に政治と軍事の発想を加えると見方が大きく変わる。

 例えば中国は、地理的な条件からすると大陸国であり、ヨーロッパまで地続きで行くことができる。しかし目を海に向けてみると中国大陸は日本列島と台湾、フィリピンなどの島国に囲まれており、それらの諸国と政治的・軍事的に敵対していると見れば、海洋に進出していくのを阻んでいる大きな壁に見えてくるのだ。

 従って中国が地図を逆さまに見るようになれば、自国の本当の姿がよく見えるようになり、何とかしてそれを突破しようとする戦略を立てるし、周辺国はその動きに対抗しようと躍起になってしまうのだ。

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「逆さ地図」で読み解く世界情勢の本質
松本利秋 著



松本利秋(まつもととしあき)
1947年高知県安芸郡生まれ。1971年明治大学政治経済学部政治学科卒業。国士舘大学大学院政治学研究科修士課程修了、政治学修士、国士舘大学政経学部政治学科講師。ジャーナリストとしてアメリカ、アフガニスタン、パキスタン、エジプト、カンボジア、ラオス、北方領土などの紛争地帯を取材。TV、新聞、雑誌のコメンテイター、各種企業、省庁などで講演。著書に『戦争民営化』(祥伝社)、『国際テロファイル』(かや書房)、『「極東危機」の最前線』(廣済堂出版)、『軍事同盟・日米安保条約』(クレスト社)、『熱風アジア戦機の最前線』(司書房)など多数。