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2015年5月19日
「逆さ地図」で一目瞭然! 中国の列島線と「真珠の首飾り」戦略
[連載] 「逆さ地図」で読み解く世界情勢の本質【4】
文・松本利秋
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中国が出した「赤い舌」


 中国を中心として、台湾からフィリピン、さらにブルネイに南下し、マレー半島の東側を北上してベトナムから海南(ハイナン)島にいたる海域に線を引いてみたらどうなるだろうか?

 その形は中国からズルッと伸ばした舌の形になるだろう。
 そのことからこの線は「中国の赤い舌」と呼ばれている。赤い舌に囲まれた中にはスプラトリー諸島(南沙諸島)とパラセル諸島(西沙諸島)がある。現在中国はこの海域を自国領土だと主張しているのだ。

 1992年に中国が制定した国内法「領海法」では一方的に尖閣諸島、南沙諸島、西沙諸島の領有権を主張するだけではなく、南シナ海においては大陸棚の自然延長を理由にして、沖縄近海の海域までの管轄権を主張している。さらには2007年11月、「赤い舌」の海域に「三沙(さんさ)市」を設定すると発表した。三沙市の行政区域は、西沙諸島、中沙諸島、南沙諸島にある260もの島やサンゴ礁を含んだものだ。

 2012年7月になると、市長を選出して三沙市を正式に発足させ、実効支配を強化した。中国の発表によると、海産物を含む食料品などの物流を、西沙諸島に一番近い海南島の文昌市に拠点を置き、物流基地を整備するということだ。
 だが、現実はここから軍が出動しさまざまな軍事活動を行なっている。当然のことながらフィリピンやベトナムが反発し、不当な行動の即時撤回を求めている。

中国の赤い舌 (c)フレッシュ・アップ・スタジオ 無断転載を禁ず ※クリックすると拡大

 中国が「赤い舌」を出して、実効支配を始めたのはベトナム戦争中のことだ。
 仏領インドシナと呼ばれたベトナム、ラオス、カンボジアは、日本が第二次世界大戦で敗退した1945年に、フランスからの独立を宣言した。しかしフランスはこれを認めず、既得権益を維持しようと軍を派遣して再度植民地化を図ったのである。

 中国で成立した中華人民共和国が、当時南北に分断されていたベトナムの北側を支持し、フランスとの戦いに勝利した。代わってアメリカが東南アジアの共産化を恐れて、南ベトナムを支持。米軍が投入されて大規模な戦いになった。

 このどさくさに紛れて、中国は南ベトナム領とされていた西沙諸島を占領してしまったのである。島を守っていた南ベトナム軍は不意を突かれ、戦闘はあったものの、撤退を余儀なくされてしまったのである。

 1973年にはパリ和平協定が結ばれて、米軍がベトナムから撤退すると、1975年に北ベトナム軍は南ベトナムの首都サイゴン(現ホーチミン)を陥落させ、翌年には北が南を併合して現在のベトナム社会主義共和国が誕生した。
 このような経緯をたどり、ベトナムは内戦中に中国から支援を受けたため、西沙諸島を占領されたことに抗議ができないでいたのである。

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「逆さ地図」で読み解く世界情勢の本質
松本利秋 著



松本利秋(まつもととしあき)
1947年高知県安芸郡生まれ。1971年明治大学政治経済学部政治学科卒業。国士舘大学大学院政治学研究科修士課程修了、政治学修士、国士舘大学政経学部政治学科講師。ジャーナリストとしてアメリカ、アフガニスタン、パキスタン、エジプト、カンボジア、ラオス、北方領土などの紛争地帯を取材。TV、新聞、雑誌のコメンテイター、各種企業、省庁などで講演。著書に『戦争民営化』(祥伝社)、『国際テロファイル』(かや書房)、『「極東危機」の最前線』(廣済堂出版)、『軍事同盟・日米安保条約』(クレスト社)、『熱風アジア戦機の最前線』(司書房)など多数。