スキルアップ
2015年5月26日
なぜ人は「他人」と比べてしまうのか
[連載] 人と比べない生き方――劣等感を力に変える処方箋【1】
文・和田 秀樹
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人と比べることよりも比べ方が問題


 おそらく皆さんも経験していることだと思いますが、他人の長所を見て、「あの人に比べると自分はまだまだだなあ」などと引け目を感じたり、逆に、同僚が仕事でミスをしたりトラブルを起こして上司に叱られたりするのを見て、「あの人に比べたら自分のほうがまだ有望株だな」などと、安心感を抱くということがあるでしょう。
 実は、自分では気づいていないことも多々ありますが、人はいろいろな事柄について、他人と自分を比較していることが多いのです。

 たとえば仕事の能力、知識や経験、あるいは学歴や容姿、健康状態や運動能力、さらには性格や幸福度、趣味、財力、所有物、地位、家柄、家族関係、そして恋愛に関すること...というように、つい人と比べてしまうポイントは枚挙にいとまがありません。

 このようにいろいろな点で自分と他人を比較し、ときに優越感を味わったり、ときに劣等感を抱いたりするなどして、心の中で大なり小なり幸不幸を味わっているわけです。
 ここで、「他人と比べるのは良いことなのか、それとも悪いことなのか?」と疑問を抱く人もいるかもしれません。

 他人と比べることで自分が幸福だけを感じるのであれば、他人と比較することは良いことかもしれませんが、そういうわけにはいかないのが現実です。どんな分野であれ自分より優れたものを持っている人は必ずいますから、どうしても自分が劣っていると感じざるを得ない場面が出てきます。そういうときは幸福感とは反対のものが心の中に生じて、気持ちが暗くなってしまうかもしれません。

 「じゃあ、いっそのこと他人と比べるのをやめてしまえばいいだろう」
 たしかに言葉ではこのように簡単に言えますが、心に何か病が生じていない限りは、他人と自分を比較せずに生きることは現実にはほとんど不可能です。

 というのは、一般論を言えば、人間が生きていくには社会に適応することが必要になりますが、そのためには自分以外の人たちと自分を比べながら、その社会で要求されるルールの適用範囲内に自分がいるかどうかを判断しつつ生きていかなければならないからです。

 結局、人は他人と比較することなしに社会の中で生きていくことはほぼ不可能なのですから、他人と比べることの良し悪しを議論することはあまり意味がないと言えます。
 それよりも他人と比較することで心の平穏が乱れたり、あまりにも優越感を抱きすぎて傲慢になり、そのために周囲と摩擦が生じてしまったりすることのほうが問題と言えるでしょう。すなわち、他人と比べること自体は悪いことではありませんが、その比べ方が問題だということになります。

人と比べてしまうのは人間の普遍的な心理


 人は、ついつい他人と自分を比べてしまう生き物です。それは洋の東西を問わず、人間の普遍的な心理と言っていいと思います。「日本人は他人と比較するが、そのほかの国の人々は他人と比較せずに自分らしく生きている」ということはありません。それどころか、現実には他国と比べることで競争心を燃やしたりする人々が多いものです。

 たとえばいまの中国を見ると、自国のテクノロジーと日本のテクノロジーを比べて強い競争意識を抱いたり、一般の国民も、人よりも勝っていたいという見栄から、海外でブランド品を買い漁るなどして、それがニュースになったりしています。韓国も競争意識が強く、熾烈な受験競争文化にもそれが表れています。また、「寿司や空手や剣道などは韓国が元祖である」などと主張していますが、これも自国の文化と日本の文化を比べて、負けたくないと競争心を燃やしている証拠でしょう。

 日本もかつてはアメリカに追いつけ追い越せとばかり、強い競争心を抱いてがむしゃらに走り続けた時代がありました。その結果、世界有数の経済大国になりましたが、いまは当時のような競争意識を持つ人はあまり見かけなくなりました。競争に勝とうという意欲を持たず、どちらかといえば「みんなに勝たなくてもいい。とりあえず暮らしていければいい」といった意識の人が多くなっている感じがします。

 そういう点では現在の日本人の競争意識はそれほど高いものではないように見えますが、かといって人と比べることをしなくなったということではないはずです。なぜなら、先ほど述べたように、人間はどうしても人と比べてしまう生き物だからです。
 このような人と比べたがる人間の心理について、心理学や精神分析学の世界ではどのような考えを提示しているでしょうか。
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人と比べない生き方
劣等感を力に変える処方箋
和田秀樹 著



和田秀樹(わだひでき)
1960年大阪府生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学学校国際フェローを経て、現在は精神科医。和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。著書に『比べてわかる! フロイトとアドラーの心理学』『自分が自分でいられるコフート心理学入門』(以上、青春出版社)、『自分は自分 人は人』『感情的にならない本』(以上、新講社)など多数。