スキルアップ
2015年5月29日
「スクール・カースト」という子どもの闇社会
[連載] 人と比べない生き方――劣等感を力に変える処方箋【2】
文・和田 秀樹
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スクール・カーストという子どもの闇社会


 スクール・カーストというのは、インドのカースト制に似たもので、上から順に、一軍(イケメン)と言われる人気者、二軍(フツメン)と言われるフォロワー、そして一番下の三軍(キモメン)と言われる仲間外れの3つの階級構造になっています。

 この序列化を決定しているのは、成績の良し悪しでもなければ運動能力の優劣でもなく、「人気」という要素です。人気があるかどうかは友達の数に反映されるのです。
 コミュニケーション能力が高くて社交上手な子どもは友達が多いのでカーストの上に位置しますが、逆にコミュニケーション能力が低くて社交下手な子どもは友達が少なく、三軍に位置づけられてクラスの輪から外されてしまうのです。

 「輪から外される」という表現からわかるように、スクール・カーストでは、キモメンと言われる三軍の子どもたちに対しては暴力型のいじめではなく、「仲間外れにする」という陰湿ないじめが行われるのです。

 「仲間外れ」型のいじめは、いじめる側が暴力を振るったり罵倒したりするような積極的ないじめ方をまったくしないので、被害の証拠が残りません。また、いじめられている子どもは教師や親に訴えにくいという特徴があります。

 なぜなら、「いじめられている」と訴えることは、「自分は友達のいないキモメンである」と自己申告することにほかならないからです。そういう自分の惨めな状況を知られるぐらいなら、甘んじて仲間外れを受け入れるほうがいいと子どもは考えるでしょう。
 こうして、スクール・カーストにおける陰湿ないじめは闇から闇に葬られてしまうのです。

 人と比べたり競争するということを排除して、学力や運動能力などの優劣を見せないようにしてきた学校教育がスクール・カーストのような陰湿ないじめを生んだことを考えれば、成績表を貼り出して学力を比べさせたりしていた時代のほうがまだましだったと言ってもいいでしょう。

 というのは、勉強の成績で競争するということは、自分を鍛え、自分の能力を高めることに繋がるからです。しかし、スクール・カーストの中では、「あまり良い成績を取れば友達に嫌われるかもしれない」などと考えて、わざと答えを間違えることも現実にあるのです。つまり、自分の能力を高めたりするどころか、逆方向へと向かってしまうということです。

 アドラーは、「優越性の追求」を人間の重要な動機づけと考えました。要するに、他人と比べ、他人に勝とうとするのは人間が本来持っている欲求であるということです。
 その欲求のベクトルがおかしくなると、スクール・カーストにおける陰湿ないじめのように、歪んだ競争が行われるようになるわけです。

不良化も非行も優越性の追求の表れ


 子どもたちが非行に走ったり不良になったりするのも、「オレは人よりも目立つんだ」「オレは強いんだ」というように、優越性を認めてもらいたいという欲求が負の方向に表出した結果であると言っていいでしょう。

 ネット社会にも歪んだ優越性の追求がよく見られるようになりました。たとえば2015年1月には、スーパーの商品につまようじで穴を開けた少年が逮捕されましたが、騒ぎの発端は少年が商品に穴を開ける映像をインターネットで配信したことでした。

 その1年半ほど前には、飲食店の学生アルバイトが店内で不衛生な悪ふざけをした写真をインターネット上に流し、その影響で店が潰れるという事件もありました。これも「人よりも目立ちたい」といった優越性の追求のベクトルが歪んだほうに向かった例と考えることができます。
 こういう事件が増えることで、優越性を追求すること、あるいは競争や比べること自体が悪いことだと捉えてしまうのはマズイことだと私は考えています。

 ここ数年、「人と比べるのはやめて自分らしく生きよう」「ナンバーワンを目指すのではなくオンリーワンでいい」といった、万人ウケするような何となくふんわりとしたフレーズが本のタイトルになったり歌詞になったりしていますが、現実を見れば、人と競争せずに、あるいは人と比べることなしにこの社会を生きていくことはほとんど不可能であることはたしかで、社会に出れば、誰しもそれを実感するはずです。

 競争を避けて通れないのであれば、歪んだベクトルで優越性を満足させるのではなく、社会に受け入れられる何かで堂々と勝負して勝つことが大事だと言えるでしょう。

 なお、この連載のメインテーマである「比べること」については、6月16日発売の『人と比べない生き方――劣等感を力に変える処方箋』(SB新書)でも、アドラーやコフートの理論を交えながら解説しているので、あわせてご一読いただければ幸いです。

(了)





人と比べない生き方
劣等感を力に変える処方箋
和田秀樹 著



和田秀樹(わだひでき)
1960年大阪府生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学学校国際フェローを経て、現在は精神科医。和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。著書に『比べてわかる! フロイトとアドラーの心理学』『自分が自分でいられるコフート心理学入門』(以上、青春出版社)、『自分は自分 人は人』『感情的にならない本』(以上、新講社)など多数。
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