ビジネス
2015年6月10日
「ほめたら伸びるタイプの部下」への、ほめ過ぎにご注意!?
[連載] 「いい人上司」は報われない!【2】
文・井上和幸
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 部下が思うように動いてくれないから、つい自分で仕事をしてしまう。
 あれこれ言ってもわかってくれないから、悩んでいる。
 部下はさっさと帰るのに、上司の自分は帰れない...。
 より高度な仕事にも挑戦したいのに、その時間がまったくとれない。

 部下をお持ちの方、こんな状況になってはいないでしょうか?

 だとしたら、今すぐ「いい人上司」をやめましょう!

 4月に刊行した『ずるいマネジメント』から、今回は「ずるい上司」ならではの、人の動かし方を伝授します。

個性豊かな「動物園型」チームをいかに動かすか


 チームの中に個性豊かなキャラ立ちした人たちが集まって、「うちは動物園みたいだ」と悩む上司を見かけます。しかし、バリエーションはチームの強さにもつながります(いわゆるダイバーシティ論は、これを指していますね)。価値観が合ってないと困りますし問題も出ますが、いろんなメンバーがいたほうが全体の力は強まります。

「最強チーム」と「最適チーム」という考え方があります。

 簡単な構造だけでも知っておくと、「ずるい上司」のあなたの武器になるでしょうから、簡単に伝授いたしますね。

「最強チーム」とは、同じキャラクターが揃ったチームのことを指します。同質性が高い(要するに、似た者同士)ので、あうんの呼吸で即動けるのが特徴です。

「最適チーム」とは、異なったキャラクターが揃ったチームです。多様性があるので補完的な役割を分担し合いながら、全体の効果性を高めることができます。ただし、バラエティーに富んだ異なるタイプが集まっているだけに、チームがお互いを理解し、しっくりくるまでに少し時間を要します。一気呵成に攻め込もうとするには、エンジンが温まるまで時間がかかり過ぎるというリスクもあります。

「最強チーム」と「最適チーム」は、プロジェクトのスパン(期間)によって、およそこんな風な使い分けができます。

・短期決戦型プロジェクト
 これは同じキャラクターがいたほうが強いです。数か月の短期でプロジェクトを完遂させる場合は、同質性の集団である「最強チーム」を編成するのがよいでしょう。

・通常業務
 通常の業務は継続的ですので、補完関係ができたほうが強いチームになります(「最適チーム」)。攻め型の人、守り型の人、管理型の人など様々なタイプの人がうまく組み合わさって、助け合えるチームのほうが、中長期的には強いです。

 短期決戦はなるべく似た者同士、長期戦は多様性があり、補完関係を持ったチーム作りを。こんな視点を持っているだけでも、目の前のチーム作りへの取り組み方が、変わると思います。

「認めてほしい部下」をほめすぎると不感症になる


「私、ほめられて伸びるタイプなんです」。こういう部下、多いですね(笑)。ほめること自体は悪いことではありません。が、ほめ過ぎはあまり望ましいことではありません(えっ? と疑問に思いました?)。

「賞賛・ご褒美を与えること」は、実は心理的には「罰すること」と同じ位置づけの行為で、いずれにせよ、外発的動機づけなのです。これはいずれ、与えた人の依存症を引き起こします。

 部下は、ほめられることが動機づけになると、そこから「ほめられることについて不感症」になっていくので、ほめればほめるほど、同じほめられ方では満足できず、もっとほめてもらわないと喜べなくなっていきます。際限ない、ほめの増量大作戦を、上司のあなたが選択するというのも1つの権利ではありますが、まあ、それを永遠に続けるわけにもいきませんよね。

「認めてほしい部下」に対する上司の態度は、本来、話をしっかりと聞いてあげることが基本です。ただし、特別扱いをすることは依存度合いを高めていくトリガーにしかならないので、あえて少し引き気味で、淡々と接するほうが望ましいです。

 声をかける、話を聞いてあげる頻度を一般社員よりも多少は多めにする。
 が、特別扱いは状況を悪化させるのみ。
 冷たい態度ではなく、飄々と「普通扱い」をするべし、なのです。

 上司のあなたとしては、「認めてほしい部下」だけに過剰に時間を使い続けたいわけではないと思いますので、存在を認めてあげることはした上で、平素はあえて距離をおいてもいいのです。

 ただし、マズロー的にいうところの「安全欲求」「所属欲求」の部分を満たすことは大事です。「目を合わせる」「微笑む」「名前を呼ぶ」、こうした基本的なコミュニケーションを保ち、「ああ、自分もうちのチームの中の、頼りがいのある一員だと思われているんだ」ということをわかっていてもらえれば、それで充分。さほど迷惑や手間をかけられる存在ではないと思います。

(了)





ずるいマネジメント
頑張らなくてもすごい成果がついてくる!
井上和幸 著



井上和幸(いのうえかずゆき)
株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO。1989年早稲田大学政治経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。人事部門、広報室、新規事業立ち上げを経て、2000年に人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。2004年より株式会社リクルート・エックス(2006年に社名変更、現・リクルートエグゼクティブエージェント)。エグゼクティブコンサルタント、事業企画室長を経て、マネージングディレクターに就任。2010年2月に株式会社 経営者JPを設立(2010年4月創業)、代表取締役社長・CEOに就任。多くの経営者の人材・組織戦略顧問を務める。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。クライアント企業・個人の個々の状況を的確に捉えたスピーディなコンサルティングに定評がある。自ら8000名超の経営者・経営幹部と対面してきた実績・実体験に基づき、実例・実践例から導き出された公式を、論理的にわかりやすく伝え、幅広い業種・規模のクライアントから好評を得ている。著書に『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『あたりまえだけどなかなかできない 係長・主任のルール』(明日香出版社)など。各種メディア出演多数。
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