スキルアップ
2015年6月1日
中国が拡大する本当の理由は、生存権拡大の地政学にあった!
[連載] 「逆さ地図」で読み解く世界情勢の本質【5】
文・松本利秋
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中国のトラウマになった海からの侵攻


 中国が地図を逆さまに見るようになったのはごく新しく、19世紀後半のアヘン戦争以降のことだ。アヘンを強引に売りつけるイギリス商人のやり方に業を煮やした当時の清国政府は、1839年にイギリス商人のアヘンを没収して焼き捨てた。

 これを口実にイギリス政府は清国に戦争を仕掛け、1842年に清国の敗北によって終わった。その結果、香港がイギリスの支配下に入れられたのである。

 このアヘン戦争の顛末を、魏源(ぎげん)という人が記録した『海国図誌』(全50巻)が日本にも伝わり、イギリスのあざといやり方とともに、ヨーロッパ諸国の近代的軍備の実態が日本の知識層にも広まった。このショックが基で日本の明治維新への波動が始まるのである。

アヘン戦争でイギリスに割譲した香港 (c)フレッシュ・アップ・スタジオ 無断転載を禁ず ※クリックすると拡大

 アヘン戦争が当時のアジア諸国に与えた衝撃は大きかったが、もっとも大きなショックを受けたのが、当の清国だ。理不尽でありながら、強大な力を持った海洋国家の傍若無人ぶりがその後の中国人のトラウマとして残ったのである。

 その後中国は、取るに足らない小国であると思っていた新興国日本に、日清戦争であっけなく敗れてしまう。その日本も近代的で強力な海軍を持ち、強大な海上輸送力を備えていた。だからこそ中国大陸に膨大な兵力と物資を送り込むことができ、中国国内での地上戦を勝利に導くことができたのである。

 アヘン戦争と日清戦争の敗北という、二重のショックに見舞われた中国は海からの侵攻を極端に恐れるようになった。だから海を舞台にして縦横無尽に走り回って交易をしている国家に対して、敵対意識を持つようになったと言えよう。

 中国が地図を逆さまに見るようになって、日本列島・沖縄・台湾・フィリピン・ベトナムに囲まれていると認識した時、これらの国々を「敵対している国家群」と見なせば、中国は外洋に出る道を塞がれていると考えるのは当然のことだろう。この連鎖の外側には、強大な海洋国家アメリカが控えており、鎖の内側にある韓国と軍事同盟を結んでいるのだ。

 中国の海洋に対する基本的な認識は「敵対国に取り巻かれている」という、彼らなりの現実感覚に素直に従ったところにあると言えるだろう。従って日本との関係においては、尖閣諸島で対立姿勢を採り、台湾とは併合問題で敵対、ベトナム・フィリピンとはパラセル諸島(西沙諸島)・スプラトリー(南沙諸島)の領有権問題で軍事的な対決姿勢を一層強くしているのだ。

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「逆さ地図」で読み解く世界情勢の本質
松本利秋 著



松本利秋(まつもととしあき)
1947年高知県安芸郡生まれ。1971年明治大学政治経済学部政治学科卒業。国士舘大学大学院政治学研究科修士課程修了、政治学修士、国士舘大学政経学部政治学科講師。ジャーナリストとしてアメリカ、アフガニスタン、パキスタン、エジプト、カンボジア、ラオス、北方領土などの紛争地帯を取材。TV、新聞、雑誌のコメンテイター、各種企業、省庁などで講演。著書に『戦争民営化』(祥伝社)、『国際テロファイル』(かや書房)、『「極東危機」の最前線』(廣済堂出版)、『軍事同盟・日米安保条約』(クレスト社)、『熱風アジア戦機の最前線』(司書房)など多数。