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2015年6月16日
竹島より深刻! 中国にすり寄る韓国の知られざる領有権問題
[連載] 「逆さ地図」で読み解く世界情勢の本質【7】
文・松本利秋
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韓国と中国が管轄権を争う離於島(イオド)


 李承晩ラインにより、日本領である竹島が強引に韓国領とされたことは知られているが、この時期にもう一つの島が韓国領とされたことは、日本ではあまり知られていない。
 現在でも韓国の実効支配下にある韓国名「離於島」(イオド)がそれである。

 島という名がついてはいるが、実際には海面下にある岩礁だ。長崎県の鳥島から北西276キロ、韓国の馬羅島(マラド)の西149キロ、中国の海礁島(かいしょうとう)沖合245キロに位置している。

離於島の位置 (c)フレッシュ・アップ・スタジオ 無断転載を禁ず ※クリックすると拡大

 1938年に日本政府が測量し、観測施設を建設する計画があったが、第二次世界大戦の勃発によって中断されていた。しかし、戦後の1987年には韓国政府が灯台を設置し、韓国内でナショナリズムが高揚していた盧武鉉(ノムヒョン)政権下の2003年に、海洋科学基地が建造された。この基地は水面から36メートル、水面下は40メートルという76メートルにおよぶ巨大建造物である。

 韓国がこの岩礁の領有権を主張し始めた1950年代は、現在の中国である中国共産党(中共)政府と韓国の間には国交はなく、中国の海軍力も微々たるものでしかなかった。
 当時、正式な中国政府として、韓国と国交があった台湾の中華民国政府は、韓国に対して領有権の主張が可能であったが、冷戦下でともに西側陣営に属するものであり、国際法上の島でもない暗礁を巡って対立する余裕もなかった。

 そうした機に乗じて、味方陣営の領土を掠め取っていく経緯は、1952年のサンフランシスコ講和条約締結により日本が主権を回復した直後の、まだ自衛隊が発足していない時期に竹島を占領したのと酷似している。

 当時の韓国は独立直後の民族主義が高揚しており、韓国は朝鮮戦争下での特有の国際情勢を利用して、当時としてはほとんど利用価値のない辺境の地を領有することで、国内向けのパフォーマンスを行なった。当然中共政府は韓国の行動に対して抗議し、領有権は認めないとした。

 韓国で離於島が問題となったのは、北東アジアのパワー・バランスが大きく変化し始めた時である。まず韓国は北朝鮮の脅威を前提に陸軍中心の軍備を推進してきた。従って韓国の海軍力は、急速に増強された中国海軍と比較すれば弱体である。加えて尖閣諸島を巡る日中の対立が、韓国にとっての脅威となってきていたのである。とりわけ深刻なことは、日本に対する中国の姿勢が予想をはるかに上回る強硬さを見せたことである。

 尖閣問題では、世界有数の海上警備力を持つ日本でさえ、中国艦船の度重なる領海侵犯が強い圧力となり、懸命な対処を強いられているのが実情である。もし離於島が同じ状況に直面した場合、韓国は日本と同様に自力で中国の圧力に対処し得る海軍力も経済的余力も存在していない。

 事実、2012年10月20日、中国が無人機を活用して黄海の自国領海の監視を強化。10月22日付の韓国紙『中央日報』日本語版によると、中国は遼寧(りょうねい)省内に基地2ヵ所を建設すると発表し、さらなる圧力を増す姿勢を強めたのだ。






「逆さ地図」で読み解く世界情勢の本質
松本利秋 著



松本利秋(まつもととしあき)
1947年高知県安芸郡生まれ。1971年明治大学政治経済学部政治学科卒業。国士舘大学大学院政治学研究科修士課程修了、政治学修士、国士舘大学政経学部政治学科講師。ジャーナリストとしてアメリカ、アフガニスタン、パキスタン、エジプト、カンボジア、ラオス、北方領土などの紛争地帯を取材。TV、新聞、雑誌のコメンテイター、各種企業、省庁などで講演。著書に『戦争民営化』(祥伝社)、『国際テロファイル』(かや書房)、『「極東危機」の最前線』(廣済堂出版)、『軍事同盟・日米安保条約』(クレスト社)、『熱風アジア戦機の最前線』(司書房)など多数。
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