スキルアップ
2015年6月26日
子ども時代にすべては決まる、は本当か?
[連載] 人と比べない生き方――劣等感を力に変える処方箋【5】
文・和田 秀樹
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子ども時代はやはり将来を決める重要なポイント


 前回、いい嫉妬と悪い嫉妬の話をしましたが、皆さんの周りにも、他人と比べて負けていると思ったときに頑張ろうとする人と、相手の足を引っ張ろうとする人と、大きく分けて2つのタイプがいるのではないでしょうか。

 こういう性格的なものは子ども時代に作られると考えられるわけですが、そうだとすれば、この2つのタイプの人は、まったく異なる人生を歩むことになると予想することができます。

 一般論を言えば、自分が頑張っていつか勝ってやると思うような子どもは、一生懸命努力をして何かしらの成功を掴む確率が高くなり、人の足を引っ張るようなタイプは、相手を引き下げるだけで自分を上げることをしないことから成功とは無縁になりがちで、社会的にも低い位置にとどまる確率が高くなると考えられるわけです。

 そういう性格的なものが子どものころに形成されるとすれば、「子ども時代にすべてが決まる」と言ってもいいかもしれませんが、現実には大人になってからでも何かのきっかけで人間が変わって成功者になることがあります。
 しかし、確率的にはおそらく相当低いはずです。それを考えると、やはり子ども時代にどう育つかということは、将来を決める大事なポイントになると言えるでしょう。

 私自身は、子どものころに恵まれているほうが心も健全に育つと考えています。「勝ち組は性格が悪い」という話をたまに聞きますが、実際のところは、裕福な家庭で何不自由なく子ども時代を過ごすのと、不遇な子ども時代を過ごすのとでは、一般的に後者のほうがヒガミっぽくなったり、すぐあきらめてしまうような性格が形成されやすいように思います。

 もちろん、先ほど言ったように、そういうヒガミっぽい子どもやあきらめやすい子どもでも、大人になってから成功したり、素晴らしい奥さんや夫や恋人を掴んだりすることができるかもしれませんが、現実的なことを言えば、性格が良くないのですから、そういう素敵な出会いをモノにできる確率は非常に低いものになると言わざるを得ません。
 あるいは、あきらめ組、負け組の中に入ってしまったときに、そこからいきなり大発明でもして成功者になるということも、圧倒的にまれな例と言うことができます。

 現代の精神分析学では、人間の性格は育った環境の中で書き込まれるソフトで決まると考えられています。そのソフトがいったんできてしまうと、大人になってからの修正が思ったより簡単ではないのです。

 そういうことを考えると、やはり子ども時代に不遇でないほうがいいということになりますが、子どもは生まれてくる環境を選べないので、より良い人生に繋がる別の方法が必要です。その点についてアドラーは、優越性の体験を与えることが大事であると考えたのです。

子どもの成長には小さな成功体験が必要


 アドラーは、人間はもともと優越性と成功を追求するものであると考え、子どもたちが優越性を得る努力をすることで実りある有用なものを生み出すように仕向けるのが親や教師の役目だと述べています。そして、優越性の体験をどう持たせていくかということを重視しているのです。
 私自身もこの考えには賛成で、子どもたちには優越性の追求と、実際に優越性を感じる体験、すなわち成功体験が必要だと考えています。

 その点では、学力競争を回避するこれまでの日本の教育は根本的に失敗だったように思います。テストの成績表を貼り出すことで負ける子どもが出るのはかわいそうだと言うのであれば、総合点で貼り出すのではなく、国語、算数、理科、社会と、科目ごとにテストの成績表を貼り出すとか、スポーツでもいろいろな競技で競争させるとか、作文で競争させるとか、何十種類も競争を用意してあげればいいのです。そうすれば勝ち組になれる人がたくさんできます。子どもたちはそれぞれ何かしら得意なものを持っているので、何かの分野で勝ったり上位に食い込んだりして優越性を味わうことができるわけです。

 小学校の低学年では生まれ月によって発育の差が出るので、ゴルフのハンディのように、生まれ月によるハンディキャップを与えるといったことを考えながら、みんなが成功体験を持てるようにすることで、それぞれ自信を持つことができるはずです。

 このようにすれば、貧しかったり、親の愛に恵まれなかったりした人でも、別の形で満足感を得ることができます。実際、受験競争が激しかった時代、日本人は貧しかったり、兄弟が多いぶん親の愛に恵まれなかった人も少なくなかったでしょうが、競争で勝った人たちは、それなりの人物になっているようです(そうでない例外もいるのでマスコミに叩かれるのですが...)。

 アドラーは勇気づけることが大事であると述べていますが、成功体験を持たせることは最も有効な勇気づけと言えます。人間というのはどんな形であれ、何かで勝っていると、ほかに負けている部分があっても、やはり自信が持てるものです。たとえば、野球の分野で成功しているイチロー選手は高卒ですが、それがコンプレックスになっているということは考えにくいことでしょう。

 結局、子どもたちには「あなたはこういうことで勝てますよ」という体験をどうさせていくかがポイントになるわけですが、これまで見たように競争のベクトルがだんだん歪んできているのが現実です。

 また、競争そのものも画一的なように見えます。たとえば理系と文系の争いというものがあって、「数学ができるほど頭がいい」と言う人もいれば、「数学なんかできるヤツは頭が固くて性格が悪い。大事なのは国語力だ」と言う人もいます。「英語力が大事だ」と言う人もいます。

 そういう争いがありますが、お互いに認め合えば何の問題もないのです。数学ができる人も偉いし、国語ができる人も偉い。英語力のある人も偉いというふうに評価すれば、ぶつかることはないでしょう。テニスの錦織選手とイチロー選手のどちらが偉いかという比較はあまりしないわけですから、そういうふうに発想を変えていくことが大事なのではないでしょうか。

 なお、この連載のメインテーマである「比べること」については、6月16日発売の『人と比べない生き方――劣等感を力に変える処方箋』(SB新書)でも、アドラーやコフートの理論を交えながら解説しているので、あわせてご一読いただければ幸いです。

(了)
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人と比べない生き方
劣等感を力に変える処方箋
和田秀樹 著



和田秀樹(わだひでき)
1960年大阪府生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学学校国際フェローを経て、現在は精神科医。和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。著書に『比べてわかる! フロイトとアドラーの心理学』『自分が自分でいられるコフート心理学入門』(以上、青春出版社)、『自分は自分 人は人』『感情的にならない本』(以上、新講社)など多数。