カルチャー
2015年6月3日
「混ぜるな危険」の真実──漂白剤はなぜ危ないか
[連載] 本当はおもしろい化学反応【1】
文・齋藤勝裕
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 「混ぜるな危険」は、化学物質を扱うときの鉄則です。家庭にはたくさんの化学物質があります。その化学物質を頻繁に扱うのが、家事をあずかる主婦たちです。主婦が毎日のように手にする化学物質の漂白剤は、取り扱い方を誤ればトンデモナク危険な化学反応を起こし、猛毒のガスを発生します。

漂白剤の危険


 家庭用の漂白剤は、おもに酸化系の漂白剤です。酸化系の漂白剤の多くは、成分に次亜塩素酸カリ(正式名:次亜塩素酸カリウム)KClOを含んでいます。次亜塩素酸カリは潜在的に塩素ガスCl2を発生する能力があります。塩素は濃ければ薄緑色の気体で、非常に有害な猛毒ガスです。その毒性の強さは、第1次世界大戦で毒ガス兵器として用いられたことからもわかります。このときの連合軍の死者は5000人を超えたといわれます。

有機塩素化合物


 その結果、各国が塩素ガスの生産に乗りだし、世界的な塩素生産量は一挙に100倍に増大したといいます。しかし、戦争が終わると塩素ガスは無用になります。せっかくつくった塩素ガスをなにかに利用できないものかということで、盛んになったのが塩素化学です。

 殺虫剤としての使用が検討され、DDTやBHCなどのような有機塩素系殺虫剤が開発されました。PCBも有機塩素化合物です。意図的に合成したものではありませんが、ダイオキシンも有機塩素化合物です。

 ヒトに対して有害な塩素は、細菌にも有毒です。つまり殺菌剤になるのです。そのため上水道の殺菌剤として用いられています。一般にカルキといわれるのがそれで、正式名は次亜塩素酸カルシウムCa(ClO)2、すなわち塩素を発生する元になるClO原子団2個がカルシウム原子Caと結合しているのです。

漂白剤の塩素発生反応


 漂白剤に含まれる次亜塩素酸カリウムに酸が加わると、下式の化学反応が起こり塩素ガスが発生します。

  KClO(次亜塩素酸カリウム) + 2HCl(塩酸) → KCl(塩化カリウム) + H2O(水) + Cl2(塩素ガス)

 わかりやすいように、酸としては最も構造が簡単な塩酸HClを用いましたが、どのような酸であれ、同じ化学反応が進行します。すなわち、酸化系の漂白剤に酸を加えたら最後、戦場で用いる毒ガスとまったく同じ塩素ガスCl2が発生するのです。

 近くにいる人はたまったものではありません。この塩素ガスを台所や風呂場のような狭い密閉空間で吸い続けると、命にかかわるので危険です。実際に事故は何件も起きています。命は助かっても、失明した人もいます。

混ぜるな危険:漂白剤とトイレ用洗剤


図2 混ぜるな! 危険 ※クリックすると拡大

 化学薬品の成分は、素人にはなかなかわかりません。しかし、容器のラベルにはかならず書いてあるので、使用する前に一度目を通しておくと、つまらないミスを防げます。

 洗剤というと、漂白剤といっしょに使う洗濯用洗剤を思い起こします。最近の洗濯用洗剤はほとんどが中性洗剤で、酸性ではありません。しかし洗剤は洗濯用だけではありません。トイレに用いる洗剤もあるからです。

 トイレの汚れは塩基性(アルカリ性)です。この汚れを落とすには酸性の洗剤が有効なので、多くのトイレ用洗剤には塩酸が含まれています。このトイレ用洗剤と酸化系漂白剤を用いると、前記の化学反応が進行して塩素が発生します。

 一度進行した化学反応は、途中で止めることができません。反応物がすべて消費されてしまうまで進行するのです。

(了)
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本当はおもしろい化学反応
漂白剤の白さや混ぜると危険な理由など身近な化学反応の秘密がわかる!
齋藤勝裕 著



【著者】齋藤勝裕
1945年5月3日生まれ。1974年東北大学大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。現在は名古屋市立大学特任教授、名古屋産業化学研究所上席研究員、名城大学非常勤講師、名古屋工業大学名誉教授などを兼務。専門分野は有機化学、物理化学、光化学、超分子化学。『マンガでわかる元素118』『周期表に強くなる!』『マンガでわかる有機化学』『マンガでわかる無機化学』『カラー図解でわかる高校化学超入門』(サイエンス・アイ新書)ほか、著書多数。