カルチャー
2015年6月11日
容器を入れ替えると爆発することも!?──「混ぜるな危険」の真実
[連載] 本当はおもしろい化学反応【2】
文・齋藤勝裕
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 「酸、アルカリ(塩基)」と聞くと「アブナイ」と連想できるとしたら、それは正しい反応だといっていいでしょう。アブナイと思ったら、危険を回避するのが賢明です。

身のまわりの酸


図1 身近な酸 ※クリックすると拡大

 では、身のまわりに酸はあるのでしょうか? 理科や化学の授業で聞くのは塩酸HCl、硫酸H2SO4、硝酸HNO3などですが、家の中のどこを探してもそんな表示のビンなど見当たりません。だからといって普通の家庭に酸などないと考えるのは大きな間違いです。純粋な酸があるとは思えませんが、酸の混合物はたくさんあります。

 まず、台所やトイレ関係の洗剤です。これらの多くには塩酸が含まれています。また調味料の酢は酢酸の4%程度の水溶液です。酢酸は"リッパ"な酸の一種です。最近、洗剤にクエン酸を用いることが流行っていますが、これも酸です。クエン酸は柑橘類の酸っぱみのもとなので、レモンや梅干しにはタップリのクエン酸、すなわち酸が入っているのです。

酸の危険性


 硫酸や硝酸が体についたら火傷するので、危険なことはいうまでもありません。普通の家庭ではこれらの酸に触れることはないでしょう。しかし、思わぬ事故は起こりえます。

 酸の中でも特に危険、いや危険を通り越しておそろしいのはフッ化水素酸HFです。これは強い腐食作用をもち、ガラスも溶かします。体につくと内部に浸透して細胞内のカルシウムと反応し、フッ化カルシウムCaF2を生じます。この結晶が神経を刺激するので、激しい痛みが生じるといいます。また、体内はカルシウム不足になるため、それを補うために骨が溶け始め...、と悲惨な症状になるのです。

 HFの関与した事故も起きています。2012年9月に韓国でHFを運搬したタンクローリーから貯蔵タンクに移す際に、8トンものHFが漏洩しました。作業員を含む5人が亡くなり、18人が重傷、4200人ほどが治療を受けるという大事故になりました。

 2012年12月には犯罪も起きています。女性会社員が帰宅途中に左足の指に激痛を感じ、病院に駆け込みました。指先がすでに壊死し、緊急手術で5本の指の先をすべて切断しました。犯人は同じ職場の男性で、女性の靴にHFを塗っておいたのでした。

混ぜると危険


図2 中身を入れ替えるのはNG! ※クリックすると拡大

 酸化系漂白剤にトイレ用洗剤を混ぜると、塩素ガスが発生することは第1回で説明しました。次亜塩素酸を含む溶液に、家庭の中の酸や混合物を混ぜても塩素が発生する可能性があります。

 パイプクリーナーを用いてエアコンの掃除をしていたところ、排水口からボコボコという音とともに煙のようなものがでてきたことがありました。台所で酢を用いて掃除をしており、両方の排水が混じった結果、塩素ガスが発生したのです。パイプクリーナーには次亜塩素酸が含まれています。

 カビ取り用の洗剤にも次亜塩素酸が含まれています。風呂場などでカビ取り洗剤を噴霧したあと、中和しようと酢をスプレーすることがあるそうですが、窓を閉めて行うとひどい目にあう可能性があります。

 使い残しの酸を保存するときは、容器に気をつける必要があります。もしアルミ缶に入れると、アルミニウムAlと酸が反応して水素ガスH2が発生します。圧力が高まれば当然、破裂してしまいます。

  2Al(アルミニウム)+6HCl(塩酸)
  → 2AlCl3(塩化アルミニウム)+3H2(水素)

 化学物質は、買ったときに入っていた容器以外には移さないことが鉄則です。






本当はおもしろい化学反応
漂白剤の白さや混ぜると危険な理由など身近な化学反応の秘密がわかる!
齋藤勝裕 著



【著者】齋藤勝裕
1945年5月3日生まれ。1974年東北大学大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。現在は名古屋市立大学特任教授、名古屋産業化学研究所上席研究員、名城大学非常勤講師、名古屋工業大学名誉教授などを兼務。専門分野は有機化学、物理化学、光化学、超分子化学。『マンガでわかる元素118』『周期表に強くなる!』『マンガでわかる有機化学』『マンガでわかる無機化学』『カラー図解でわかる高校化学超入門』(サイエンス・アイ新書)ほか、著書多数。
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