スキルアップ
2015年6月22日
国境離島防衛の教訓は台湾・金門島が教えてくれる
[連載] 「逆さ地図」で読み解く世界情勢の本質【8】
文・松本利秋
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実力を誇示すれば中国は引く──恫喝と面子(メンツ)の裏側にあるもの


金門島と馬祖島の位置 (c)フレッシュ・アップ・スタジオ 無断転載を禁ず ※クリックすると拡大

 これまでの連載で、東シナ海や南シナ海などの島を巡る中国の行動について述べてきた。
 中国はこれまでに実際に島を軍事占領しようと試みたことがあった。それは中国本土にごく近い金門島(きんもんとう)と馬祖島(ばそとう)に対してである。

 台湾海峡の地図を見ればよくわかるが、両島は台湾領でありながらも、中国大陸にへばりつくように存在している。これらの島を中国側から見れば、中国大陸の喉元に突き刺さった魚の小骨のように見える。中国からすれば、実にウザったい存在なのだ。

 この2つの島を巡って中国は幾度か攻勢に出たが、現時点までに成功を収めたことはない。私自身、この島を巡る攻防戦の真っただ中の金門島に取材で訪れたことがある。

 1996年3月、私は中国支配地域から最短で2.1キロメートルしか離れていない台湾領金門島に滞在していた。この時台湾では、同月23日に実施される初めての総統選挙を目前にして、息が詰まるほどの緊張感に満ち溢れていた。

 指導者を住民の直接投票で選ぶこの選挙に圧力をかける目的で、中国軍の海軍部隊が台湾海峡に展開し、基隆(キールン)沖にミサイルを撃ち込むなどして威嚇。選挙妨害を繰り返したのである。

 私の取材目的は、金門島と馬祖島で中国軍との戦闘に備えて展開した台湾軍の動向と、2万人近い住民避難の実態を調査することにあった。

 戦車、装甲車、完全武装した兵士の行軍、兵と軍需物資を満載し、猛スピードで駆け抜ける軍用車両、夥しい数の上陸用舟艇とそれにわずかな荷物を持って乗り込む住民たち。目の前に展開している光景は、映画で見る戦争シーンよりはるかに現実離れしているように見えた。

 私は、われわれ日本人には当たり前になっている「選挙」を実施するために、これほどの犠牲を払わなければいけないという現実に正直戸惑っていたのだ。
 台湾に対する軍事圧力を巡って、中国軍はアメリカ政府に向けて「米軍が介入すれば、米西海岸に核攻撃を仕掛ける。アメリカ政府は台北よりロサンゼルスを大切に思うはずだ」との恫喝をかけ、対米戦争に向けての覚悟を表明した。

 これに対して米海軍は、横須賀から空母キティホークを中心とする空母打撃群を台湾海峡に向かわせ、さらにはペルシャ湾に展開していた原子力空母ミニッツの空母打撃群を派遣。キティホークは北から、ミニッツは南から台湾海峡に入った。

 米空母打撃群は一個で沖縄嘉手納(かでな)空軍基地に匹敵する攻撃力を持ち、中規模国家並みの打撃力を持つ。これが二個も台湾海峡に展開し、中国海軍を牽制することとなった。その結果、中国海軍は「予定通り」の演習を終了したとして、早々と港に引っ込んだのである。

 総統選挙は無事実施され、反中共を唱えた李登輝(りとうき)が初代の民選総統となった。中国の圧力に反発した民意が反映され、中国の政治的手法がまったく正反対の結果を生んだ典型例だとされた。

 このような民主主義的手続きを経た政治を実行するために、動員された台湾軍は延べ70万人であった。この事実から、中国の意に反することを周辺諸国が実行しようとすれば、コストを覚悟しなければならないという教訓が導き出される。

 と同時に、核攻撃の恫喝に対して、米海軍が二個空母打撃群を派遣したように、実力を誇示すれば中国は引くということが証明された。つまり、居丈高な軍事恫喝に反応すれば、相手方のペースに嵌(はま)ってしまうということである。

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「逆さ地図」で読み解く世界情勢の本質
松本利秋 著



松本利秋(まつもととしあき)
1947年高知県安芸郡生まれ。1971年明治大学政治経済学部政治学科卒業。国士舘大学大学院政治学研究科修士課程修了、政治学修士、国士舘大学政経学部政治学科講師。ジャーナリストとしてアメリカ、アフガニスタン、パキスタン、エジプト、カンボジア、ラオス、北方領土などの紛争地帯を取材。TV、新聞、雑誌のコメンテイター、各種企業、省庁などで講演。著書に『戦争民営化』(祥伝社)、『国際テロファイル』(かや書房)、『「極東危機」の最前線』(廣済堂出版)、『軍事同盟・日米安保条約』(クレスト社)、『熱風アジア戦機の最前線』(司書房)など多数。