カルチャー
2015年8月10日
「正々堂々」と戦わない中国とどう向き合うか
[連載] 中国との付き合い方はベトナムに学べ【7】
文・中村繁夫
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勝てば官軍の中国


ハノイ郊外のホアマック地区にあるリース工場入口にて

 正々堂々の日本と真逆の戦い方をしてくるのが中国である。ビジネスにおいても自分たちの存在を相手より有利に見せるために、いろんなことをしてくる。

 儲かってもいないのに「儲かっている」と言い、社員数などの会社の規模の水増しもする。ただし、彼らにとっては「悪気はない」のである。すべては面子で動くのが中国であり、そこに則ってやっているだけのことである。

 あるとき、私のもとに怪しげな日本語を話す中国人から「ぜひ商売がしたい」と連絡が入った。忙しいので断っていたのだが、何度断っても連絡をしてくる。仕方ないので一度だけ会うことにしたのだが、相手はなんとベンツのVIP仕様の車で現れた。

 「あなたは何でそんなのに乗っているんだ?」と尋ねると、これぐらいしないと信用されないからだと平気で答える。
 日本人からすればそんなことで相手を信用するしないの問題ではないのだが、基本的に中国では「勝てば官軍」が常識になっている。

 たとえば、こんなこともある。ある中国人経営者の部下に、優秀な学校を出た人間が秘書として入った。中国では秘書は最高のエリートコースである。なぜならあらゆる経営の秘密に触れることができるからだ。

 秘書になれるのは頭がよく、機転が利き、商売のことをよくわかっている人間である。経営者のもとで秘書は命じられたことは何でもやる。ところが、その秘書の働きぶりを認めた親会社が彼を引き抜くと、今度は途端に手のひらを返したように経営者への接し方を変えてくるのだ。

 日本ではあまり考えられないことだろう。いくら親会社に移ったとはいえ、もともとお世話になった人間に対して「下に見る」ような言動や行動を取るのは礼を失しているからだ。

 中国人なら、自分が元いた会社のコンペティターのところにも堂々と転職していく。むしろ、わざと「それをされると一番ダメージがある」と思われることをする。日本では禁じ手だ。

 私も蝶理(ちょうり)時代、いくらもコンペティターからの誘いがあった。条件だって悪くなかった。いや、私が在籍していた後半の蝶理は経営が苦しいときだったので、どの話に乗っても「そりゃ、しゃあないよ」と後ろ指を指されることもなかっただろう。

 だが、私も日本人のはしくれとして「もらっている給料以上の仕事をしている」ことに誇りを持っていたのだ。
 そんな美学はもちろん中国相手には通用しない。『三国志演義』の中に描かれている、諸葛亮孔明という天才的軍師のことは多くの日本人もよく知っている。この英雄も、突き詰めれば策略と計略、知略と機略で劉備玄徳率いる蜀の名を天下に轟(とどろ)かせる。

 なぜ、諸葛亮孔明が中国人に好かれるのかと言えば、敵を騙し、欺いて勝利を収めることができているからである。それを「賢い」と考えるのが中国なのである。

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中国との付き合い方はベトナムに学べ
中村繁夫 著



【著者】中村繁夫(なかむらしげお)
1947年京都府生まれ。京都府立洛北高校卒業後、静岡大学農学部木材工業科に進学。大学院に進むが休学し、世界放浪の旅へ出かける。ヒッピーのような生活を続けながら、ヨーロッパ、ブラジル、アメリカなど30数カ国を放浪する。約3年の旅を終え、大学院に復学、修士課程を修了。旅を続ける中で、商社の仕事、レアメタルという商材に興味を覚え、繊維と化学品の専門商社、蝶理に27歳の新入社員として入社。約30年勤務し、そのほとんどをレアメタル関連部門でのレアメタル資源開発輸入の業務に従事する。蝶理の経営状況悪化により、55歳でいきなりのリストラ勧告。レアメタル事業をMBOで引き継ぐことを決意し、2003年、蝶理アドバンスト マテリアル ジャパンの社長に就任。翌年、MBOを実施し独立。アドバンスト マテリアル ジャパンの代表取締役社長に就任した。中国、ベトナムをはじめとするアジア各地で会社を設立し、ビジネスを幅広く展開。日本の「レアメタル王」として知られる。交渉を通じて数多くの失敗を経験するなかで、ベトナムの交渉術(対外戦略)が個人・ビジネス・国家レベルでいちばん日本人に参考になることを説く。ウェッジ等でアジアに関するコラムを数多く寄稿。著書に、『レアメタル・パニック』(光文社)、『レアメタル資源争奪戦』(日刊工業新聞社)、『2次会は出るな!』(フォレスト出版)などがある。