カルチャー
2015年8月10日
「正々堂々」と戦わない中国とどう向き合うか
[連載] 中国との付き合い方はベトナムに学べ【7】
文・中村繁夫
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あえて異質と組んで中国に立ち向かう


 ベトナムが考えているこれからの中国や世界との付き合い方、戦い方は一国主義ではない。ベトナム対どこかの国ではなくASEANで一緒に戦える相手と組んで中国にも出向いていくというものだ。

 日本と中国の関係においても同じである。二国間だけであれこれ話をするよりも、ASEANの第三国を交えて新しい価値観を入れた上で中国と向き合えばいいとベトナムは教えてくれている。

 一対一で中国と日本が喧嘩している限り、漁夫の利で他国が利益を得ることがあっても、当事者間では無益なのである。彼らの指南する戦い方では、日本が先にベトナムと手を組んでおく。日本が前面に出るのではなく、ベトナムの強みを利用して日本は後ろ側で利益を得るような仕組みをつくっておけばいい。

 日本人のやり方は違うのだという内向き思考では、今後ますますベトナムとの差が開いていきかねない。内向き志向は「お察し文化」である。同じ思考、同じバックグラウンドを持った仲間で集まって、さしたる反対意見もトラブルもなくものごとが進むことに慣れてしまうと外に出るのが億劫(おっくう)になる。

 これでは21世紀に入って日本は精神的鎖国をしていると言われても仕方ない。それでうまくいくのならいいが、世界と対峙することなくやっていくのは非現実的だろう。
 極論すれば、対中国の問題も、日本が内向き志向だから「問題」として振り回されるだけで、異質と組んで多様性のある見方、考え方、行動をすれば何も問題ではなくもっと有意義なことに時間もお金も使えるわけである。

 だが、特に日本の大手企業は、まだまだ内向き志向から脱し切れていないことが多い。誰も責任は取りたくないし取れない仕組みになっているために、異質=リスクと見なして排除している。

 事態を打開するようなアイデアも、当たり障りのない範囲の常識的なものしか出てこず、さまざまな決定権者の面子(メンツ)に配慮した妥協の産物が生まれる。そこでは誰の責任も問われないような薄い戦略が淡々と実行され、うまくいっても大した利益にはならず、うまくいかなくても問題にもならないのである。

 日本と中国を取り巻く真の問題は中国にあるのではなく、日本がこの状態から一刻も早く脱することができるかどうかにあるのではないだろうか。

日本も子ども外交から「戦わずして勝つ」大人の外交に


 外交面だけを見れば、日本よりもベトナムの戦い方のほうがよほど成熟した大人の戦い方をしている。なぜ、そう感じるのか。

 たとえば、私はウクライナ、ロシアとも商売をしている。まさに現在、世界の新冷戦構造の舞台となっている国である。
 日本人は単純にクリミア半島をめぐるロシアとウクライナの争いのように考えている人が多いが、そんな単純なものではない。裏で糸を引いているのは米国であり、その周囲にはロシアとの関係に気をもむドイツの存在もある。

 第一義的には米国によるウクライナを使ったロシアいじめが大きい問題だろう。米国はウクライナに、天然ガス供給などの甘言を弄しているロシアと対立させたいのだ。
 その背景には、シェールガスの開発で自信を持って傲慢になった米国の大国意識がある。世界で唯一の超大国だと本気で考えているのが米国だからである。

 私は、今回のロシアとウクライナをめぐる問題で思い出したことがある。忘れもしない、ベトナム戦争が泥沼化していたときのことである。当時、私は世界武者修行の途中で米国に滞在していた。米国は振り上げた拳の収め方を必死で探っていた。

 そこでキッシンジャー大統領補佐官に日本を飛び越えて中国の周恩来首相との秘密裡の会談を行わせた。会談では互いに「日本」の経済発展を脅威に感じるという点で利害を一致させ、うまく協力関係を引き出させることでベトナム戦争終結に向けて中国の力を借りることに成功したのである。

 さらには当時のソ連にも冷戦構造をやめたいという思いがあった。経済が破綻していたからだ。その中で日本だけが実際の戦闘は行わず、奇跡的な経済発展を遂げていたという点がポイントである。

 ある意味で、その頃の日本の外交は今よりもよほどしたたかだったわけだ。うまく世界情勢に乗って、まさに孫子の兵法のごとく「戦わずして勝つ」ことを実践していたのである。

 今の日本はそれができていない。ベトナムのほうが現在の新冷戦構造下でもうまく中国を利用して、「戦わずして勝つ」ことで経済成長できているのである。

 なお、ベトナムを映し鏡に我われが中国をはじめ世界といかに付き合っていくかについては、最近刊行した『中国との付き合い方はベトナムに学べ』(SB新書)に詳しくまとめている。久米 宏 氏にもご推薦を賜っている。あわせてご一読いただきたい。

(了)





中国との付き合い方はベトナムに学べ
中村繁夫 著



【著者】中村繁夫(なかむらしげお)
1947年京都府生まれ。京都府立洛北高校卒業後、静岡大学農学部木材工業科に進学。大学院に進むが休学し、世界放浪の旅へ出かける。ヒッピーのような生活を続けながら、ヨーロッパ、ブラジル、アメリカなど30数カ国を放浪する。約3年の旅を終え、大学院に復学、修士課程を修了。旅を続ける中で、商社の仕事、レアメタルという商材に興味を覚え、繊維と化学品の専門商社、蝶理に27歳の新入社員として入社。約30年勤務し、そのほとんどをレアメタル関連部門でのレアメタル資源開発輸入の業務に従事する。蝶理の経営状況悪化により、55歳でいきなりのリストラ勧告。レアメタル事業をMBOで引き継ぐことを決意し、2003年、蝶理アドバンスト マテリアル ジャパンの社長に就任。翌年、MBOを実施し独立。アドバンスト マテリアル ジャパンの代表取締役社長に就任した。中国、ベトナムをはじめとするアジア各地で会社を設立し、ビジネスを幅広く展開。日本の「レアメタル王」として知られる。交渉を通じて数多くの失敗を経験するなかで、ベトナムの交渉術(対外戦略)が個人・ビジネス・国家レベルでいちばん日本人に参考になることを説く。ウェッジ等でアジアに関するコラムを数多く寄稿。著書に、『レアメタル・パニック』(光文社)、『レアメタル資源争奪戦』(日刊工業新聞社)、『2次会は出るな!』(フォレスト出版)などがある。
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