カルチャー
2015年8月18日
ノンカロリーの人工甘味料と砂糖、選ぶならどっち?――人工甘味料がかえって太るメカニズム
[連載] 体を壊す食品「ゼロ」表示の罠【2】
文・永田 孝行
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人工甘味料を摂ると「肥満ホルモン」が分泌される


 ところで、カロリーゼロ、糖質ゼロといった「ゼロ食品」の是非を問うときに一番の論点として挙げられるのは、これらの食品のほぼすべてに含まれる人工甘味料についてです。

 ブドウ糖を摂れば血糖値が上がります。すると、脳が甘さを感知して、視床下部の満腹中枢も刺激されます。その結果、空腹感が和らぎ食べすぎを防げるのです。

 一方、人工甘味料の場合は、舌で甘いと感じても、脳の視床下部には「甘い」「血糖値が上がっている」といった指令が届かないので、食べすぎる恐れが指摘されています。

 また、人工甘味料はインシュリンに作用するという研究結果がいくつも出てきています。  インシュリンとは、血糖値を下げる一方、脂肪をため込もうとする働きを持つホルモンのこと。そのため、「肥満ホルモン」という呼び名がついていて、肥満や糖尿病に深い関わりを持つ重要なホルモンです。

 たとえば、ラットを使った実験では、人工甘味料のひとつであるアセスルファムKを注入すると、インシュリンの分泌が増えるという報告があります。
 ちなみに、ラットのすい臓を調べたところ、アセスルファムKの注入量に比例して、インシュリンが分泌されたそうです。こうした人工甘味料とインシュリンの分泌の関係性を裏づけるような実験は、ほかにも散見されるので、信ぴょう性は高いと考えられます。

 また、ラットだけでなく人間を対象にした研究でも、同じような実験結果があります。具体的には、人工甘味料であるスクラロースを含んだ飲み物と、水を摂った場合の違いを調べたもの。結論としては、スクラロースを含んだ飲み物を摂ったときのほうが、血糖値のピークが高くなったそうです。また、インシュリンの分泌量のピークも、水に比べて約20近く上昇したそうです。

 人工甘味料がインシュリンの分泌を促すとすれば、カロリーはゼロだとしても、それだけ肥満のリスクも上昇します。また、人工甘味料を摂りすぎると、血糖値の上昇、インシュリンの分泌量が増える分だけ、すい臓が疲弊して将来的には糖尿病になるリスクも高めてしまいます。

砂糖よりも人工甘味料のほうが糖尿病を招く原因になる!?


 また、2014年、学術雑誌の『ネイチャー』に興味深い論文が発表されました。 ざっくりいえば、人工甘味料が腸内フローラの状態を左右するのではないか、そして、腸内細菌の作用によって耐糖能異常を招くのではないかと結論づけているのです。そして論文では、ダイエットや糖尿病予防として使われている人工甘味料が、実は糖尿病や代謝疾患の発症のリスクを高めるのではないかと警鐘を鳴らしています。

 もう少し詳しく説明すると、マウスを使った実験では、水や砂糖水を飲んだマウスと、人工甘味料を混入した水を飲んだマウスを比較したところ、人工甘味料を混入した水を飲んだマウスのほうが、より多くの耐糖能障害を起こしたそうです。
 耐糖能障害とは、いわゆる糖尿病予備群のこと。血糖値が正常と異常(糖尿病)の間にあり、放っておくと糖尿病に移行する可能性が高い状態です。

 なぜ、糖尿病予備群になってしまうのでしょうか。論文では、その原因として、腸内細菌が関係しているのではないかと仮説を立て、耐糖能異常を発症した人の腸に存在している特定の細菌が、人工甘味料に反応する何らかの物質を分泌して、それがブドウ糖の過剰摂取の場合に似通った炎症反応を招き、耐糖能異常を起こす可能性を示唆しています。

 腸内細菌と人工甘味料の関係については、まだまだわからないことが多いものの、『ネイチャー』に発表されたマウスと人間を対象に行われた実験自体は、信ぴょう性が高いのではないかと思われます。

 たとえ「カロリーゼロ」をうたっていても、人工甘味料に対するメリット・デメリットと未解明な作用を踏まえれば、肥満や糖尿病を予防するとはいい切れず、かえって逆効果になる可能性も十分に考慮しなければならないのではないでしょうか。それでも、あなたは「カロリーゼロ」を選びますか?

 なお、今回の記事内容については、8月12日発売の『体を壊す食品「ゼロ」表示の罠』(SB新書)でもふれています。あわせてご一読いただければ幸いです。

(了)





体を壊す食品「ゼロ」表示の罠
永田 孝行 著



永田孝行(ながた・たかゆき)
1958年愛知県名古屋市生まれ。東京大学大学院医学系研究科で肥満と代謝を研究。 生活習慣病予防と改善の為の食事療法としてGI値 (グリセミック・インデックス) に着目して実験・研究を重ねた後、2001年に「低インシュリンダイエット」を提唱し、ブームを巻き起こす。また2003年には特異的な体脂肪分解のメカニズムを解明し、部分痩せを可能にする著書『10 days ポイントダイエット』を国内外で出版。これまで60冊近くを出版し、書籍販売総数は500万部を突破。主な活動としては健康保険組合や企業を通して社員の健康・保健指導や生活習慣病予防と改善対策における食品の研究開発、健康コンサルタント、さらには講演活動や雑誌の指導・監修、テレビ、ラジオ、新聞などの取材も多数受けている。主な著書に『低インシュリンダイエット』(新星出版社)、『なんで太るの?』(角川書店)など。
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