カルチャー
2015年8月26日
東海道新幹線の色はなぜ変わらないのか――半世紀続く、白い車体に青い帯
[連載] 新幹線をデザインする仕事【3】
文・福田 哲夫
  • はてなブックマークに追加

東海道新幹線が開通して半世紀――N700Aなどいまなお進化する新幹線は、いかにつくりあげられてきたのか。新幹線のデザインチームの一員である福田哲夫氏が、多くの技術者たちが集まるプロジェクトチームにおけるデザイナーの仕事について執筆した『新幹線をデザインする仕事』から、そのエッセンスを紹介しよう。


守るべき価値ある色彩


N700系先頭形状イメージスケッチ (c)福田哲夫 ※無断転載を禁ず

 モノの評価基準は時代とともに変わっていく。また同時に、変えてはならないことや変える必要のないことなどは、社会の倫理観や技術倫理に合わせ見極めている。

 東海道新幹線車両の外部塗装色は、白い車体に青い帯という開業以来の色彩であり、半世紀もの間変わらずに親しまれてきた。また、視覚により伝達するイメージの統一という意味でこの白い車体に青い帯という色彩の組み合わせは、まさに沿線の白砂青松の風景にふさわしく、世界中の人たちには、高速列車のシンボルとして変える必要がないほどに認知され、愛され続けている。

 初代の0系から100系に変わる際には、白色の見直しが行われている。アイボリーに近い色味を帯びた色相から、色味を感じさせない白に近い明度へと変更し、全体のイメージは明るく颯爽(さっそう)とした表情になっている。

 青い帯幅と位置については、それぞれ300系、700系、N700系など車体の系統別に異なっている。高速化に伴う空力的な車体断面は、性能向上に合わせて全高が低くなり、軽量化と省エネ化などから側面窓の面積も縮小されることに合わせて、その帯幅のバランスについてはその都度微調整を繰り返し決められている。

 300系の色彩計画は、100系と同じようでも、青の帯色は、当初やや紫味を帯びた青色を提案したこともあったが、最終的には100系以来の青色に落ち着いている。

 また300系の色彩計画には、ほかの組み合わせによる提案もしたことがある。しかし、世界一の高速鉄道をリードし、王道を行く路線としての東海道新幹線には議論する必要がないほどに世界中から認知されている。これまでのイメージを継承できるということの意味は大きく、進化の著しい新幹線車両の歴史の中にあって守るべき価値のある色彩に出合えたことは、喜びであるとともに誇りさえ感じている。

"ドクター・イエロー"――目に見えないところへのデザイン


 第二世代の新幹線用検測車にあたるT4編成の通称"ドクター・イエロー"は営業車ではないために不定期運行であり、また昼間に見られることも稀であるところから、今や"幻のドクター・イエロー"とも形容され、この車両の黄色は"ラッキー・イエロー"としても人気のようである。

 車体色は黄色に青帯を踏襲している。この黄色は、色彩の三属性を新しく調整をしている。初代0系が登場した 50 年前、塗料の発色性能は現在ほどのものではなく、クレーンやブルドーザーなど建設機械の黄色も彩度の低い色であったという。

 この新しいT4の編成の黄色では、色相から赤味を除き標準的な黄色に近づけた。青帯の色は変更していないが、黄色との相対で明るく見えるなどの錯視効果がもたらされている。

 また明度を明るくしたこと、そして彩度を鮮やかにすることで全体のイメージを爽やかに演出しながら、新世紀のシステムを支えるにふさわしい色目を選択し、車両としてその存在感をアピールしている。

人間中心の設計


 この電気軌道総合試験車T4編成は7両で構成されている。カタチとしては700系を基本としながらも、両先頭の1号車と7号車には、前方監視用のカメラがついているほか、窓の配置からもわかるように内外装の仕様のすべてが変わっている。

 電気信号の送受信に関係する検査を担う、測定台車のある中央の4号車では、高速での測定結果をその場で中央にある管理システムへと送信し保守作業へと反映されていく。  この監視卓周辺のデザインには、人間工学的な見地から床・壁・天井の形状や色彩、新しい空調システムの吹き出し口の位置や風導管、あるいは照明がモニターへ移り込まぬように角度や機器配置などが工夫されている。

 先代までの検測車両では、内装が検査診断装置類でいっぱいに満たされ通路も狭く、まるで迷路のようなイメージであった。しかし電子機器類の技術革新は目覚ましく、次世代のT4編成では、人間中心の作業配置に変えることができている。

 また寸法的に余裕ができた分は、全体として作業要員の疲労を少なく快適に作業をするために充てている。両隣の3号車と5号車には、天井屋根に架線の観測用ドーム、さらに両脇の2号車と6号車には、測定用パンタがそれぞれ設置され集電関係の設備機器が搭載されている。

 この車両編成は、毎日の快適な乗心地を維持するために、レールや架線の状況、ATCという列車制御装置の動作状況などを総合的に検査し、高速走行状態で診断しながら、安全で安定的な運用のための保守点検作業へと結びつける役目を担っている。

 デザインが装飾的で"見映え"をよくするという解釈だけでは、その本質を理解していないことになる。快適な職場環境へ向けたデザインによるアプローチは、一般的なオフィス空間では設計の優先事項としてすでに認知されているところである。

 普段の対外的な訴求は必要なく、見えない部分であっても、社内的な作業関係者の安全な作業につながる環境改善という見地からも、重要なプロジェクトであるとして理解され、提案することができている。

※本連載内容については、拙著『新幹線をデザインする仕事――スケッチで語る仕事の流儀』(SBクリエイティブ刊)でもふれている。あわせてご一読いただければ幸いである。

(了)
  • はてなブックマークに追加





新幹線をデザインする仕事
「スケッチ」で語る仕事の流儀
福田哲夫 著



【著者】福田哲夫(ふくだ・てつお)
インダストリアルデザイナー。1949年東京に生まれる。日産自動車のデザイナーを出発点として、独立後は公共交通機関や産業用機器を中心に、指輪から新幹線まで幅広い分野のデザインプロジェクトに携わる。特に新幹線車両では、トランスポーテーション機構(TDO)として300系、700系、N700系「のぞみ」をはじめ、400系「つばさ」、E2系「あさま」、E1系、E4系「MAX」の他数々の先行開発プロジェクトにも携わってきた。ビジネスやリゾート向けの特急車両、寝台車など鉄道車両の開発プロジェクトを評価され受賞多数。現在は産業技術大学院大学特任教授・名誉教授、京都精華大学客員教授、女子美術大学特別招聘講師ほか。(公財)日本デザイン振興会グッドデザイン・フェロー。共著に『プロダクトデザイン』日本インダストリアルデザイナー協会(JIDA)編(ワークスコーポレーション)。次世代を担う子どもたちへ"ものづくりの楽しさ"を伝えるワークショップ活動を通じて、未来への夢を一緒に描き語りかけている。