カルチャー
2015年9月24日
ドイツ、教会離れの原因は「教会税」にあり
[連載] 宗教消滅─資本主義は宗教と心中する─【4】
文・島田裕巳
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世界中で同時多発的に起きる「宗教」なき世界。今回は、ドイツのカトリックとプロテスタントの二大勢力を分析します。年間、20万人以上が教会を離脱する真の原因とは何なのか。「ポスト資本主義時代」の宗教の未来を指し示す長期連載、4回目。


プロテスタントもカトリックも離脱する


 今年の7月、ドイツではカトリック教会について衝撃的な数字が発表された。

 2014年の一年間で、カトリック教会を正式に離脱した者の数が、20万人以上にのぼり、2013年に比べると、離脱者の数は22パーセントも増えたというのである。
 2014年にカトリック教会を離脱した人の正確な数は21万7116人である。2013年には、17万8805人だった。22パーセントの増加というのは、かなり大きな数字である。

 ドイツでは、キリスト教が主要な宗教で、ローマ・カトリックとプロテスタントに二分されている。プロテスタントは、ドイツ福音主義教会と呼ばれるもので、そのなかには、ルター派、改革派教会、合同派などが含まれる。

 ドイツは、マルティン・ルターによる宗教改革が起こった国であり、伝統的にプロテスタントが大きな勢力になっているが、カトリックも依然としてそれと拮抗する勢力を維持している。
 ドイツ人のうち、30.8パーセントがカトリックで、その数は2470万人に及ぶ。一方、プロテスタントは30.4パーセントで、2430万人である。まさにカトリックとプロテスタントに二分されていると言っていい(なお、ドイツの総人口は2014年の時点で8108万人であり、日本の3分の2)
 離脱増加は、最近の傾向であり、しかもその数は、毎年増えている。

 今から10年ほど前の2006年、離脱者は8万4389人、2007年は9万3667人だった。それが、2008年には12万1155人と10万人台に増え、それからわずか4年しか経っていない2014年には20万人を超えたわけである。
 このまま行けば、さらに相当数のドイツ人がカトリック教会から離れていくことになる。

なぜ、ドイツ人は教会から離れていくのか


 では、プロテスタントはどうなのだろうか。

 正確な数字は分からないが、プロテスタントも、教会から離脱する人間の数は増えているようだ。ドイツに在住していた人の話では、長い間、プロテスタント教会から離脱するドイツ人の方がカトリックよりも多かったが、2010年にカトリックからの離脱がそれを上回ったという
 となれば、プロテスタントの教会からも、毎年20万人近くが離脱していることになるだろう。

 毎週日曜日に、カトリック教会のミサに出席する信者は12パーセント程度にすぎないという調査結果も出ている。これは、すでに述べたフランスの場合と共通している。
 教会に来るのは、赤ん坊に洗礼を受けさせたり、初聖体など、通過儀礼のときだけで、後は、クリスマスや復活祭といった重要な祝日だけである。これはちょうど、日本人が初参りや初詣に神社に行くのと同じ感覚だ。

 教会を離脱した人々は、「司教の態度が権威的だ」とか、「教会が民主的でない」といったことを理由にあげるようだが、一方でカトリックの聖職者が性暴力をふるっていたことが判明したり、女性が聖職者になれないなど女性差別があることも、離脱の原因になっている。
 しかし、多くのドイツ人が、教会から離れている理由は、何よりも「教会税」の存在が大きい。教会税を支払いたくないために、教会を離脱する人間が増えているのである。

 教会税などと聞いても、私たち日本人にはピンと来ない。初耳だという人も少なくないだろう。日本にあてはめれば、「寺院税」、あるいは「神社税」という感覚である。
 ドイツでは、教会税の制度があり、所得税とともに、所得税の8パーセント、ないしは10パーセントを教会税として徴集されるのである。
 しかも、教会税は教会が徴集するものではなく、ドイツ国家が徴集する。現在の教会には、とても税金を徴収する能力はないからだが、要するに、カトリックであろうと、プロテスタントであろうと、教会に所属していれば、自動的に所得税が割り増しになるわけだ。
 こうした教会税の制度は、ドイツのほかに、アイスランド、オーストリア、スイス、スウェーデン、デンマーク、フィンランドなどに存在する。ドイツでは、一時、この教会税を廃止しようとする動きもあったが、そうはならなかった。

 ドイツのカトリック教会に入る教会税は、2008年の時点で56億ユーロ(当時のレートで約7530億円)にものぼり、それが、ドイツの教会を世界でもっとも財政的に豊かなものにしてきた。税が廃止されることは、教会にとっては大問題である。廃止に抵抗するのは当然だろう。

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宗教消滅
資本主義は宗教と心中する
島田 裕巳 著



【著者】島田 裕巳(しまだ ひろみ)
現在は作家、宗教学者、東京女子大学非常勤講師、NPO法人葬送の自由をすすめる会会長。学生時代に宗教学者の柳川啓一に師事し、とくに通過儀礼(イニシエーション)の観点から宗教現象を分析することに関心をもつ。大学在学中にヤマギシ会の運動に参加し、大学院に進学した後も、緑のふるさと運動にかかわる。大学院では、コミューン運動の研究を行い、医療と宗教との関係についても関心をもつ。日本女子大学では宗教学を教える。 1953年東京生まれ。東京大学文学部宗教学宗教史学専修課程卒業、東京大学大学院人文科学研究課博士課程修了。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員を歴任。主な著書に、『創価学会』(新潮新書)、『日本の10大新宗教』、『葬式は、要らない』、『浄土真宗はなぜ日本でいちばん多いのか』(幻冬舎新書)などがある。とくに、『葬式は、要らない』は30万部のベストセラーになる。生まれ順による相性について解説した『相性が悪い!』(新潮新書)や『プア充』(早川書房)、『0葬』(集英社)などは、大きな話題になるとともに、タイトルがそのまま流行語になった。