カルチャー
2015年10月8日
韓国の宗教――戦後、キリスト教の驚異的な成長
[連載] 宗教消滅─資本主義は宗教と心中する─【6】
文・島田裕巳
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世界中で同時多発的に進行する「宗教」の消滅。では、日本の隣、韓国ではどうだろう?そこにはヨーロッパや日本と似て非なる現状が起きていた。キリスト教への大規模なシフトである。そこから見えてくるモノは? 「ポスト資本主義時代」の宗教の未来を暗示する長期連載、6回目。


現地に溶け込めなかったイスラム教徒


 ここまでヨーロッパの現状を見てきた。
 ヨーロッパでは、キリスト教の教会離れが進み、代わりに、イスラム教が台頭している。「ヨーロッパのイスラム化」は、決して架空の話ではなく、現実味を帯びている。
 人口の将来予測などを行っているピュー・リサーチ・センターというアメリカの研究機関が、2050年における世界の宗教人口について予測している。それによれば、イスラム教徒の人口は27億6000万人に達し、世界全体の29.7パーセントを占める。2010年の時点では、16億人で23.2パーセントだった。これは、世界全体でイスラム教徒が増加していることを意味する。「急増」しているといっていいかもしれない。

 ヨーロッパについて、イスラム教の人口比をあげれば、2050年、ドイツが10.0パーセント(2010年は5.8パーセント)、フランスが10.9パーセント(7.5パーセント)、英国が11.3パーセント(4.8パーセント)、イタリアが9.5パーセント(3.7パーセント)で、スペインも7.3パーセント(2.1パーセント)になると見積もられている。
 大ざっぱに言ってしまえば、これから35年後のヨーロッパでは、10分の1がイスラム教徒によって占められることになる。

 日本人が移民する場合、移民先の国に日本の宗教を持ち込むことはなかった。後から布教師が出向き、信者を獲得していくことはあったが、移民先のほとんどがキリスト教の社会であったために、キリスト教に改宗する日本人移民も少なくなかった。
 これに対して、ヨーロッパに移民したイスラム教徒は、現地の社会に簡単には溶け込めないこともあり、むしろイスラム教の信仰を深めていった。キリスト教に改宗することは少ないのである。

韓国の宗教はどうなっているのか?


 では、目をアジア、とくに東アジアに転じてみよう。
 ヨーロッパでは、キリスト教からイスラム教へという大規模なシフトが起こっているが、東アジアの場合には、今のところ、むしろキリスト教が勢いを得てきているように見える。
 日本ではそうした事態は起こっておらず、北朝鮮については情報が限られているので分からないのだが、韓国の場合だと、戦後、キリスト教が大きく伸びている。

 朝鮮半島には、中国から仏教や儒教がもたらされ、伝統的にこの二つの宗教がせめぎ合ってきた。仏教が日本に伝えられたのも、朝鮮半島を経てのことで、仏教を伝えるために使者を送ってきたのも、朝鮮半島にできた王国の一つ、百済の聖明王であった。
 ただ、14世紀終わりから20世紀はじめまで続いた李氏朝鮮の時代には、儒教が重んじられ、儒教を崇拝し仏教を排斥する「崇儒廃仏」の政策がとられた結果、仏教の力は衰える。
 もう一つ、朝鮮半島には、「ムーダン」と呼ばれる巫女がいて、シャーマニズムを実践してきた。儒教は支配者のための宗教であり、男性のためのもので、女性は排除されたため、彼女たちはムーダンに救いを求めるしかなかった。

 こうした宗教環境の朝鮮半島にキリスト教が本格的に伝えられたのは18世紀になってから、布教が本格化するのは19世紀に入ってからである。朝鮮半島では、社会の近代化が進められようとしていた時代に、ようやくキリスト教が入ってきたのである。
 しかし、儒教の壁は厚かった。また、1910年には「日韓併合」という事態も起こったため、国家権力による強い規制もかかり、キリスト教はそれほど大きくは発展しなかった。
 それが、戦後、日本からの独立を果たすことで、キリスト教の布教も自由にできるようになり、さらに儒教の弱体化という現象も起こって、キリスト教は社会に浸透しやすくなった。

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宗教消滅
資本主義は宗教と心中する
島田 裕巳 著



【著者】島田 裕巳(しまだ ひろみ)
現在は作家、宗教学者、東京女子大学非常勤講師、NPO法人葬送の自由をすすめる会会長。学生時代に宗教学者の柳川啓一に師事し、とくに通過儀礼(イニシエーション)の観点から宗教現象を分析することに関心をもつ。大学在学中にヤマギシ会の運動に参加し、大学院に進学した後も、緑のふるさと運動にかかわる。大学院では、コミューン運動の研究を行い、医療と宗教との関係についても関心をもつ。日本女子大学では宗教学を教える。 1953年東京生まれ。東京大学文学部宗教学宗教史学専修課程卒業、東京大学大学院人文科学研究課博士課程修了。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員を歴任。主な著書に、『創価学会』(新潮新書)、『日本の10大新宗教』、『葬式は、要らない』、『浄土真宗はなぜ日本でいちばん多いのか』(幻冬舎新書)などがある。とくに、『葬式は、要らない』は30万部のベストセラーになる。生まれ順による相性について解説した『相性が悪い!』(新潮新書)や『プア充』(早川書房)、『0葬』(集英社)などは、大きな話題になるとともに、タイトルがそのまま流行語になった。