カルチャー
2015年10月22日
ローマ法王、アメリカ訪問は何を意味するか ―アメリカ・南米、カトリックの危機
[連載] 宗教消滅─資本主義は宗教と心中する─【8】
文・島田裕巳
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アメリカのキリスト教に潜んだ問題


 キューバやアメリカで法王が大歓迎を受けたという報道に接すると、アメリカ大陸では、依然としてカトリックは強い勢力を保持しているかのように思われるかもしれない。
 しかし、決して磐石ではない。
 アメリカにおいては、キリスト教が圧倒的多数を占めている。そもそも、神を信じている人間がほとんどで、2011年のギャラップの調査では、92パーセントにものぼっていた。もっとも、1967年には、その割合は98パーセントにものぼったので、アメリカでさえ、神を信じる人間の割合は若干減ってきている。

 キリスト教のうちプロテスタントが全人口に占める割合は、ギャラップによれば、2014年で37パーセントである。これに対して、カトリックは23パーセントで、モルモン教とユダヤ教がともに2パーセントである。
 プロテスタントとカトリックで全体の60パーセントを占め、さらには、特定の教会に所属していないキリスト教徒が10パーセントにのぼる。これを合わせるとアメリカ人の70パーセントがキリスト教徒としての自覚をもっていることになる。
 これは、世界的に見れば、まだまだ高い数字であり、アメリカがキリスト教の影響力の強い国であることを示している。だが、その中身を見ていくと、いろいろと問題があることが分かる。

 たとえば、プロテスタントの場合、1948年の時点で全体の69パーセントを占めていた。2014年の倍近い。55年には70パーセントに達し、それが戦後はもっとも高い数字だった。それが次第に減り始め、2000年には52パーセントで、10年では45パーセントだった。それが14年に37パーセントに減少したのだから、2010年代に入って激減している。

 一方、カトリックの方は、1948年には、2014年とほとんど変わらない22パーセントだった。それが1980年と85年には28パーセントと増えたものの、近年になってやはり減少している。

 その代わりに、特定の教会に所属していないキリスト教徒が増えている。
 そして、キリスト教やユダヤ教以外の宗教が2014年では6パーセントになっている。この大半はイスラム教徒だろう。そして、無宗教が16パーセントにも達しているのだ。

 1948年の時点では、他の宗教は0パーセントで、無宗教もわずか2パーセントだった。建国の事情から考えて「神の国」とも言えるアメリカでも、キリスト教の力が衰え、イスラム教が台頭するなかで、全体としては世俗化の事態が進んでいることになる。
 日本を含め、他の先進国では、人口の減少という事態に直面しているが、アメリカだけは例外である。2010年には、アメリカの人口は3億人を突破し、14年では3億1890万人に達している。1億5000万人を越えたのが1950年だから、ここ60年間で人口が倍増したことになる。






宗教消滅
資本主義は宗教と心中する
島田 裕巳 著



【著者】島田 裕巳(しまだ ひろみ)
現在は作家、宗教学者、東京女子大学非常勤講師、NPO法人葬送の自由をすすめる会会長。学生時代に宗教学者の柳川啓一に師事し、とくに通過儀礼(イニシエーション)の観点から宗教現象を分析することに関心をもつ。大学在学中にヤマギシ会の運動に参加し、大学院に進学した後も、緑のふるさと運動にかかわる。大学院では、コミューン運動の研究を行い、医療と宗教との関係についても関心をもつ。日本女子大学では宗教学を教える。 1953年東京生まれ。東京大学文学部宗教学宗教史学専修課程卒業、東京大学大学院人文科学研究課博士課程修了。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員を歴任。主な著書に、『創価学会』(新潮新書)、『日本の10大新宗教』、『葬式は、要らない』、『浄土真宗はなぜ日本でいちばん多いのか』(幻冬舎新書)などがある。とくに、『葬式は、要らない』は30万部のベストセラーになる。生まれ順による相性について解説した『相性が悪い!』(新潮新書)や『プア充』(早川書房)、『0葬』(集英社)などは、大きな話題になるとともに、タイトルがそのまま流行語になった。
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