カルチャー
2015年10月29日
世界の宗教は「世俗化」に向かっている【第二部】
[連載] 宗教消滅─資本主義は宗教と心中する─【9】
文・島田裕巳
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世界中で同時多発的に進行する「宗教」の消滅。ここまで「今、世界の宗教に何が起こっているのか」を見てきた。そこで起きているのは、急速に広がるキリスト教離れと、イスラム教や新興宗教の伸びである。では、さらにその先にあるのは? 「世俗化」をキーワードに、【第二部】では、いよいよ「未来の宗教」に迫る。「ポスト資本主義時代」の宗教の未来を暗示する長期連載、9回目。


資本主義はあたらしい段階に入った!?


 ここまで、今、世界の宗教に何が起こっているのかを見てきた。
 まとめてみれば、次のような事態が起こっていることになる。

 まず、ヨーロッパを中心とした先進国では、キリスト教離れが急激な勢いで進行している。これは、近代社会になって以降、それに伴って必然的に起こる「世俗化」が、勢いを増していることを意味する。
 ただ、なぜ、近年になって世俗化に勢いがついたのかということは大きな問題である。そこには、先進国の高度資本主義が行きつくところまで行きついたということが関係している可能性がある。あるいは、資本主義自体が新しい段階に入ったということなのかもしれない。

 一方で、現在でも経済成長が急速に進行している国々では、プロテスタントの福音派が勢力を拡大している。この連載では、とくに韓国、中国、ブラジルについて見ていったが、こうした国々では、どこでもそうした事態が起こっている。福音派は、数あるプロテスタントの宗派の一つだが、病気直しなどの奇跡を強調し、カリスマ性を発揮する牧師の扇動的な説教によって信者たちが鼓舞されていくところに特徴がある。

「反知性主義」のもともとの意味


 ここで福音派についてひとことふれておくならば、それはイギリスに起源があり、それがアメリカに伝わって、その勢力が拡大していったものである。
 最近、日本の論壇では、「反知性主義」という言葉をよく耳にするようになったが、もともと「反知性主義」は、アメリカにおいてプロテスタントの福音派に対して言われたことである。
 アメリカの福音派では、聖書に描かれた人類の創造の物語こそが真実であるという立場をとり、公立の学校で進化論を教えることを批判する。あるいは、人工妊娠中絶に対しても批判的で、その禁止を政府に対して訴えている。「産めよ増やせよ」という神の教えに反するからだ。そうした主張は科学に逆行するということで、反知性主義との指摘を受けているわけである。
 アメリカの福音派は、政治的な運動としての性格を併せ持つ。
 この運動は、ロナルド・レーガンや、ブッシュ親子を大統領に就任させるうえで大きな働きをした。福音派に集うのは、白人が中心であり、保守的な政治思想をもつ中西部の人間たちが多い。逆に、東海岸や西海岸には少ないのである。

 ただ、経済成長が続く国の福音派は、経済発展から取り残された中下層の人間たちがターゲットであり、アメリカの福音派よりも、日本の戦後の新宗教に近い。つまり、創価学会が果たした役割を、各国の福音派が果たしているわけである。






宗教消滅
資本主義は宗教と心中する
島田 裕巳 著



【著者】島田 裕巳(しまだ ひろみ)
現在は作家、宗教学者、東京女子大学非常勤講師、NPO法人葬送の自由をすすめる会会長。学生時代に宗教学者の柳川啓一に師事し、とくに通過儀礼(イニシエーション)の観点から宗教現象を分析することに関心をもつ。大学在学中にヤマギシ会の運動に参加し、大学院に進学した後も、緑のふるさと運動にかかわる。大学院では、コミューン運動の研究を行い、医療と宗教との関係についても関心をもつ。日本女子大学では宗教学を教える。 1953年東京生まれ。東京大学文学部宗教学宗教史学専修課程卒業、東京大学大学院人文科学研究課博士課程修了。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員を歴任。主な著書に、『創価学会』(新潮新書)、『日本の10大新宗教』、『葬式は、要らない』、『浄土真宗はなぜ日本でいちばん多いのか』(幻冬舎新書)などがある。とくに、『葬式は、要らない』は30万部のベストセラーになる。生まれ順による相性について解説した『相性が悪い!』(新潮新書)や『プア充』(早川書房)、『0葬』(集英社)などは、大きな話題になるとともに、タイトルがそのまま流行語になった。
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