カルチャー
2015年11月5日
キリスト教は資本主義と親和的なのか
[連載] 宗教消滅─資本主義は宗教と心中する─【10】
文・島田裕巳
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世界中で同時多発的に進行する「宗教」の消滅。人類社会からの宗教の消滅を予言する本連載。今回は、キリスト教の信仰が資本主義の発展にいかに貢献してきたかを暴きだす。社会学者・マックス・ヴェーバーが説いた「プロテスタント」と「資本主義」の親和性。そこから見られる「宗教と経済の関係」とは?「ポスト資本主義時代」の宗教の未来を描く長期連載、10回目。


イスラム世界の資本主義とは?


 それが果たしていつのことになるかは定かではないが、人類社会から宗教はしだいに消滅しようとしている。近代化にともなう世俗化という現象は、どうやら後戻りしそうにはない気配なのだ。

 福音派など、流行している宗教であっても、今が頂点であり、やがては他の宗教と同様に衰退していく可能性が高い。人類は、その誕生以来、不可欠のものとしてきた宗教から根本的に離脱しようとしている。

 そのなかで、商人の宗教としてはじまったイスラム教は、利益の追求を禁止したりしない点で資本主義とは親和的である。
 ただし、イスラム法は利子をとることを禁じており、金融資本主義の方向へむかうことを妨げる力が働いている。その点では、本来なら、金融機関の発達を許さないところがあるのだが、近年では、「イスラム金融」が生まれ、独自の金融のシステムを築き上げようとしている。

利子をとらないイスラム金融


 もともとイスラム教世界では、何らかの事業を展開するとき、事業の主体を担う側と、それに投資する側が共同で出資し、利益が出ればそれを折半し、損失が出た場合にも、同じように両者が損を被るというやり方がとられてきた。イスラム金融は、その仕組みを現代化してものであり、今日ではさまざまな金融機関がイスラム世界にも登場している。
 信仰とのかかわりということで、イスラム金融が注目されるのは、イスラム金融機関のもとをたどると、メッカ巡礼をめざす人々がその資金を共同で貯めるシステムに行き着くことである。

 イスラム教では、礼拝などの重要な信仰行為が5つあり、それは「五行」と呼ばれる。その五行のなかには、メッカへの巡礼も含まれており、メッカへの巡礼を果たした人間は「ハッジ」と呼ばれ、周囲から評価される。
 イスラム教の暦では、一年に一度、「巡礼月」がめぐってくる。そのとき巡礼を果たせるのは250万人程度で、人数は制限されている。世界には16億人のイスラム教徒が存在するとされているので、全員がメッカ巡礼を果たすことは不可能である。そのため、ハッジは今でも憧れの存在である。

 巡礼を果たすには資金が要る。イスラム教徒は以前から、共同で金を出し合い、資金を貯め、毎年順番に巡礼を果たすというやり方をとってきた。これは、日本にもある。伊勢神宮に参拝することを目的とする「伊勢講」では、やはり資金を出し合い、代表が参拝するという方法をとってきた。

 イスラム金融の機関は、こうしたものから生み出されてきたことになるが、その代表が、1963年にマレーシアで設立されたマラヤ・ムスリム巡礼貯蓄銀行である。マレーシアからメッカのあるサウジアラビアまでは遠い。そこで、こうした機関の設立が必要となったのである。

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宗教消滅
資本主義は宗教と心中する
島田 裕巳 著



【著者】島田 裕巳(しまだ ひろみ)
現在は作家、宗教学者、東京女子大学非常勤講師、NPO法人葬送の自由をすすめる会会長。学生時代に宗教学者の柳川啓一に師事し、とくに通過儀礼(イニシエーション)の観点から宗教現象を分析することに関心をもつ。大学在学中にヤマギシ会の運動に参加し、大学院に進学した後も、緑のふるさと運動にかかわる。大学院では、コミューン運動の研究を行い、医療と宗教との関係についても関心をもつ。日本女子大学では宗教学を教える。 1953年東京生まれ。東京大学文学部宗教学宗教史学専修課程卒業、東京大学大学院人文科学研究課博士課程修了。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員を歴任。主な著書に、『創価学会』(新潮新書)、『日本の10大新宗教』、『葬式は、要らない』、『浄土真宗はなぜ日本でいちばん多いのか』(幻冬舎新書)などがある。とくに、『葬式は、要らない』は30万部のベストセラーになる。生まれ順による相性について解説した『相性が悪い!』(新潮新書)や『プア充』(早川書房)、『0葬』(集英社)などは、大きな話題になるとともに、タイトルがそのまま流行語になった。