カルチャー
2015年11月17日
専門外の薬に対して、あまりにも無知な日本の医者の実態
[連載] だから医者は薬を飲まない【3】
文・和田 秀樹
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病名だけで安易に薬を出す医者は信用しないほうがいい


 薬の出し方でも、医者の腕はわかるものです。注意しなければならないのは、患者さんの話をよく聞かないで、病名や検査結果だけを見て、安易に薬を出す医者です。しかし日本では、そんな医者がスタンダードになってきています。

 たしかに安易に薬を出すのは、いい医者ではないかもしれませんが、薬が合わないときに替えてくれるのであれば、そんなに悪い医者ではないということになります。

 また、人間の体は意外と丈夫にできていて、60歳ぐらいまでなら薬を多く飲んでも、ひどい害が出るということは、それほど多くはありません。ですから、医者が安易に薬を出したからといって、あまり神経質になる必要はないといえるでしょう。ただし、高齢者の場合は体力が落ちているので、注意が必要です。

風邪で安易に抗生物質を出す医者は、避けたほうがいい


 薬のかなでも、安易に出してもらっては困るのが、抗生物質です。抗生物質を飲みすぎると、耐性菌が出てくるからです。また、私たちの皮膚や腸のなかで有効に働いてくれている常在菌が減ってしまうという弊害もあります。

 つまり、抗生物質は悪い細菌だけでなく、いい細菌まで殺してしまうのです。

 昔は風邪を引いたときに抗生物質を処方するのが一般的でしたが、いまは気管支炎や肺炎などを起こしているときは別として、ただの風邪では、抗生物質を出さないのが常識になっています。

 これは抗生物質が効くのは細菌のみで、ウイルスには全く効果がないことがわかっているからです。つまり、風邪のほとんどはウイルスによるものなので、抗生物質は効かないということです。

 それでも、風邪と診断されたときに抗生物質を処方されることがあるかもしれません。風邪のウイルスにやられて体力が落ちているときに、外から入ってきた細菌によって、気管支炎や肺炎になったりする恐れがあるという理由からです。

 しかし、前にも述べたように、抗生物質は感染症を治す薬であっても、感染を予防する薬ではありません。予防投与の効果が本当にあるのかと言うと、疑問があるわけです。

 感染症にかからないように予防することも大事かもしれませんが、抗生物質を飲むことで耐性菌ができるほうが問題があると言えます。また、すでに述べたように、抗生物質は悪い菌だけでなく、体にいい菌も殺してしまうということを理解しておくことが大事だと思います。






だから医者は薬を飲まない
和田秀樹 著



和田 秀樹(わだ・ひでき)
1960年大阪府生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在は精神科医。和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学大学院教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。著書に『だから、これまでの健康・医学常識を疑え! 』(ワック)、『医者よ、老人を殺すな!』(KKロングセラーズ)、『老人性うつ』(PHP研究所)、『医学部の大罪』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『東大の大罪』(朝日新聞出版)など多数。
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