カルチャー
2015年11月20日
患者を薬漬けにする医学部と製薬会社の都合のいい「正常値」
[連載] だから医者は薬を飲まない【4】
文・和田 秀樹
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「正常値」主義の医者が患者さんを薬漬けしているのは、前回までのコラムでも説明したとおりです。ただ、この正常値はうさんくさいもので、時代や学界によって異なります。このように正常値を都合よく操作しているのが医学部と製薬会社で、薬漬け医療を生み出している元凶といっても過言ではありません。このことについては、拙著『だから、これまでの健康・医学常識を疑え』(ワック新書)、『だから医者は薬を飲まない』(SB新書)などでもふれてきました。今回は、これらの問題がどうして起こるのかについて説明します。


うさんくさい「正常値」の犠牲になる患者さんたち


 日本では、「正常値」主義の医者がたくさんいます。
 たとえば、何かの臓器の機能を検査して、そのデータが正常値から外れていると、たとえその患者さんが元気な状態であっても、「異常値=病気」というふうに捉える医者が少なくないのです。そして、その数値を正常値(あるいは基準値)に戻すために、薬を処方するのです。

 薬の副作用で患者さんの具合が悪くなったとしても、数値が正常値に戻ったことに対して、満足するのがいまの日本の医者なのです。正常値に戻すことが、まるで使命であるかのように考えているのです。

「正常値に戻す」と言いましたが、実は、この正常値というのは、うさんくさいものが多いのです。「ある病気について大規模調査をした結果、こういう数値の群が一番なりにくかったので、それに基づいて正常な範囲を選定した」というような方法であれば、話はわかります。ところが、実際のところは、平均値に標準偏差を加えた程度の検査データを正常値とみなしているのです。

 つまり、検査データがその正常値から外れていても、どのぐらい悪いものなのか、本当のところはよくわからないということです。

学会によって異なる正常値や判定基準


 正常値がうさんくさいのは、ときには正常値なるものが変更になったり、複数出てきたりすることからも明らかです。そのため患者さんだけでなく、医者も混乱することがあるくらいです。

 たとえば、2014年に日本人間ドック学会と健康保険組合連合会が合同で作った「検査基準値及び有用性に関する調査研究小委員会」が、「新たな健診の基本検査の基準範囲」というものを発表したのですが、そこで示された血圧やコレステロールの正常値は、従来発表されていた数値よりも緩くなっていました。

 血圧の正常値(単位:㎜Hg)を見ると、次のように変更されていたのです。

◎従来 :(上)~129 (下)~84
◎新基準:(上)88~147 (下)51~94

 これを見ると、従来は高血圧とされていた140の数値の人でも、新基準では正常値になるわけです。そうなると、「いままで薬を飲んでいたのは何だったんだ?」ということになります。ところが、今度は小委員会とは別組織である日本高血圧学会が発表している高血圧の基準値を見ると、140以上は高血圧になっているのです。「じゃあ、やっぱり高血圧なのか」ということになるわけです。

 このように、それぞれの学会によっても正常値や判定基準などが異なるわけですから、患者さんも、薬を出す医者も混乱するのは当然でしょう。

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だから医者は薬を飲まない
和田秀樹 著



和田 秀樹(わだ・ひでき)
1960年大阪府生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在は精神科医。和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学大学院教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。著書に『だから、これまでの健康・医学常識を疑え! 』(ワック)、『医者よ、老人を殺すな!』(KKロングセラーズ)、『老人性うつ』(PHP研究所)、『医学部の大罪』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『東大の大罪』(朝日新聞出版)など多数。