カルチャー
2015年11月20日
患者を薬漬けにする医学部と製薬会社の都合のいい「正常値」
[連載] だから医者は薬を飲まない【4】
文・和田 秀樹
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アメリカでは、保険会社から雇われた医者が薬を減らしている


 アメリカでも、製薬会社からお金をもらって研究をする医者はたくさんいます。そして新しい薬を作り、薬を増やしているわけですが、もう一方で、薬を減らす研究をしている医者もいるのです。

 薬を減らす研究をしている医者にお金を出すのは、保険会社です。

 たとえば、新薬が発売されてから5年経ったとして、同じ病気でその薬を飲み続けた人と薬を飲まなかった人を調査して、死亡率が変わらないとか、心筋梗塞の発生率が変わらないといった研究結果を出したとします。すると、「この調査データに基づけば、この薬を服用しても効果は認められない」というエビデンスのもとに保険会社は、「この薬を使用した場合は1セントも出さない」と言うことができるわけです。

 私がアメリカに留学していたときにも、保険会社から病院にしょっちゅう電話が来ていて、それに対して担当医がよく詳しい話をしていました。

 たとえば、治療のために患者さんの入院期間を1日延ばさなければならないというケースでも、保険会社は「どうして延ばすのか」「不要な治療ではないのか」「治療のエビデンスはあるのか」「それによってどんな効果が期待されるのか」などといった、細かいことを聞いてくるのです。

 医者がそれに対して書面で回答し、それが通れば、患者さんは保険から下りるお金で1日よけいに入院できるわけです。保険会社から電話が来ると言いましたが、実際には保険会社に雇われている専門の医者が電話をしてくるのです。質問するほうも医者ですから、ごまかしがきかないわけです。

 このように、アメリカには保険会社に雇われている医者もたくさんいるわけです。日本は健保組合や国保も赤字になっているのですから、これ以上出ていくお金を抑えたいのであれば、アメリカのように医者を雇って薬を減らす研究をさせるべきだと思います。

新薬の売り上げに加担する学会のボス


 厚生労働省によると、2012年度に製薬会社から病院などの医療機関に資金提供された総額は4765億円、医師への原稿料などは263億円に上ったとされています。資金の多くは研究費や寄付金といった名目で渡されたのだと思いますが、それにしても製薬会社から病院へ流れるお金は巨額なものと言えます。

 ふざけたことに、こういうお金は接待費でなく、研究開発費として経費として認められていました。それだけでなく、経費の自己否認といって、何に使ったかを説明をしない代わりに、きちんと税金を払うというお金が建設業と並んで多いのが、製薬業界とされていました。

 製薬会社が新薬を出す場合、国の認可を受けるためには臨床試験(治験)が必要になりますが、たとえば、その薬が糖尿病の薬だとすれば、糖尿病の権威や学会ボス的な存在に治験を依頼するのです。依頼を受けたボスは、自分の言うことを聞く他の大学教授や、その権威を振りかざして下々の者に号令をかけ、数百もの治験データを簡単に集めます。

 その見返りとして、医局には研究費が入り、ボスも製薬会社からお金をもらって講演会を行っては、新薬の名前を連呼してコマーシャルに一役買ったり、製薬会社の依頼でいろいろな媒体に何かを書いて、一流作家を超える高額の原稿料をもらったりするのです。

 また、ボスは自分の下にいる医者たちにも圧力をかけます。たとえば自分が関係している新薬を使わない医局員(医局に所属する医師)がいると、脅しにかかるのです。

「こっちの新薬のほうが効果があって副作用が少ないのに、まだそんな薬を使っているのかね。君は勉強していないんだなぁ。そういう勉強をしない人は大学に残ってもらうと困るな。勉強していないんだったら、大学に残っているより、地方の関連病院に行ったほうがいいんじゃないか」

 また、地方の関連病院にいる医局員にも、電話をかけてきます。
「私が関わった新薬をまだ知らない? 使ってないの? 君はそっちに行ってから勉強しなくなったね。大学に戻らずに、しばらくそこにいたほうがいいかもしれないね」

 このように"勉強"という言葉にかこつけて、新薬を使うことを強要したり、人事を脅しに使ったりするわけです。

特定の教授たちが患者さんの薬漬けの手助けをしている


『だから医者は薬を飲まない』(和田秀樹 著)

 日本では医療機関の数に対して医者の数が不足しています。そのため、医師を安定供給する方法の1つとして、大学病院の医局から地方のいろいろな病院に派遣するということが、よく行われるのです。

 給料は派遣先の病院が支払い、人事については医局が行うのが通例ですから、医局のトップにいる教授の鶴の一声で地方に飛ばされたり、逆に大学に戻されたりすることがあるわけです(これを通じて、高額な謝礼を病院からもらっているのが発覚して、辞めることになった大学教授もたくさんいます)。

 教授にはそういう力があるわけですが、かといって、すべての教授が医局員に圧力をかけるというわけではありません。人によって違います。

 ただし、製薬会社としては、治験の責任者として、そういう力のある医者、教授を選ぶことが多いのです。その人を選ぶことで薬の売り上げが伸びるからです。そういうことから、高血圧だったらこの先生、抗生物質だったらこの先生というように、治験が集中する教授がいるわけです。

 実際、認可を受けるような薬(治験のデータが悪いと認可は受けられません)の治験の責任者は、なぜか特定の教授に集中するのです。そういう医者が治験をすると、実際以上に、認可に都合のいいデータ(副作用が少なく、効果がある)が集まるのかもしれません。そんな人には当然、製薬会社から多額のお金が入ることになります。

 結局、こういう教授たちが新薬の治験をしたり、医局員を脅すようにしてそれを広めたりするのは、患者さんのためではなく、自分のためにやっているのです。新薬の売り上げに貢献し、薬を多く世に出すことをやっているわけですから、ある意味、患者さんが薬漬けになる手伝いを積極的にしていると言うこともできるのです。

(了)





だから医者は薬を飲まない
和田秀樹 著



和田 秀樹(わだ・ひでき)
1960年大阪府生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在は精神科医。和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学大学院教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。著書に『だから、これまでの健康・医学常識を疑え! 』(ワック)、『医者よ、老人を殺すな!』(KKロングセラーズ)、『老人性うつ』(PHP研究所)、『医学部の大罪』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『東大の大罪』(朝日新聞出版)など多数。
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