カルチャー
2015年11月19日
市場の拡大は「共同体」を消滅させる
[連載] 宗教消滅─資本主義は宗教と心中する─【12】
文・島田裕巳
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アメリカの「フロンティア・スピリッツ」


 しかし、市場に対して規制を加えなければ、資本はひたすら蓄積の方向にむかい、市場を開拓していくことに最大の精力を傾けていくことになる。

 アメリカの場合、1492年におけるコロンブスによる発見以来、ヨーロッパ諸国からの入植が相次いだ。アメリカ大陸には、すでに、今日では「ネイティブ・アメリカン」と呼ばれるようになった先住民がいたわけだが、入植者は、戦力によって彼らを圧倒し、居住地を広げていった。

 入植者は、ヨーロッパに近い東海岸から入り、しだいに西に向かって開拓を進めていった。まだ開拓の行われていない地域は「フロンティア」と呼ばれ、それは西へ西へと広がっていった。フロンティアが消滅したのは、1890年に、当時「インディアン」と呼ばれていた原住民の掃討が終了した時点においてだった。
 フロンティアを果敢に開拓していくことは、アメリカ人のあるべき姿としてとらえられ、「フロンティア・スピリット」が称揚されることとなった。

 結局のところ、フロンティアの拡大は、アメリカにとっての市場の拡大と同じであり、アメリカの経済はフロンティアの拡大とともに発展をとげていった。
 したがって、フロンティアの消滅という事態は、アメリカ経済の発展を阻むことになる。そこでアメリカは、ハワイなど太平洋の島々に進出していくとともに、中米からスペインの勢力を駆逐していく方向に転じていく。

 19世紀後半、ヨーロッパにおいては、農業革命によって食料供給が増え、それが人口の急増に結びついた。そのためヨーロッパからアメリカへの移民が増え、アメリカ国内の市場規模自体も拡大していった。

 それ以降も、アメリカの人口が増え続けているのは、移民が続いているからで、現在においても、アジアや中米などからの移民が続いている。移民によって人口が増えれば、それは市場の拡大に結びつく。市場の拡大が続けば、経済の発展も続くわけで、2010年以降も、アメリカの経済は平均で年2パーセント程度拡大している。
 ただ、1990年代は平均で3パーセント程度であり、それに比較して現在は低成長になっている。それは、アメリカにとって市場の拡大ということが、限界に来ていることを意味している。






宗教消滅
資本主義は宗教と心中する
島田 裕巳 著



【著者】島田 裕巳(しまだ ひろみ)
現在は作家、宗教学者、東京女子大学非常勤講師、NPO法人葬送の自由をすすめる会会長。学生時代に宗教学者の柳川啓一に師事し、とくに通過儀礼(イニシエーション)の観点から宗教現象を分析することに関心をもつ。大学在学中にヤマギシ会の運動に参加し、大学院に進学した後も、緑のふるさと運動にかかわる。大学院では、コミューン運動の研究を行い、医療と宗教との関係についても関心をもつ。日本女子大学では宗教学を教える。 1953年東京生まれ。東京大学文学部宗教学宗教史学専修課程卒業、東京大学大学院人文科学研究課博士課程修了。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員を歴任。主な著書に、『創価学会』(新潮新書)、『日本の10大新宗教』、『葬式は、要らない』、『浄土真宗はなぜ日本でいちばん多いのか』(幻冬舎新書)などがある。とくに、『葬式は、要らない』は30万部のベストセラーになる。生まれ順による相性について解説した『相性が悪い!』(新潮新書)や『プア充』(早川書房)、『0葬』(集英社)などは、大きな話題になるとともに、タイトルがそのまま流行語になった。
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