カルチャー
2015年11月25日
医者がひた隠す、健康な人まで"病人"になるカラクリ
[連載] だから医者は薬を飲まない【5】
文・和田 秀樹
  • はてなブックマークに追加

薬漬けにされているのは、病人だけではありません。健康な人でも、製薬会社や医者にとって都合のいい「正常値」で病気にされ、薬を飲まされることは多いのです。また、製薬会社の暗示によって、「自分は病気かもしれない」と思う人も結構います。そのため、製薬協(日本製薬工業協会)は、疾患啓発広告やタイアップ記事で誤解を招くような表現に注意するよう、協会の会員会社に通達を出したくらいです。このことについては、拙著『だから、これまでの健康・医学常識を疑え』(ワック新書)、『だから医者は薬を飲まない』(SB新書)などでもふれてきました。今回は、健康な人まで病人にされてしまうカラクリについて説明します。


病気の基準を製薬会社からの寄付金で決める医者


 前回のコラムでは、製薬会社から医局や医学部の教授にお金が流れ、自分たちに都合のいい「正常値」を作ることで、健康な人まで病人にされていることについて説明しました。このお金には、さまざまな名目があります。

 一般には、「研究開発費等」の中に、民間企業と共同に研究する費用として「共同研究費」、そして、大学にこういう研究をしてほしいと委託する形の「委託研究費」というものがあります。また、「臨床試験(治験)費」も、その研究開発費等の中に含まれます。このほかに「学術研究助成費」というものもあります。これには「奨学寄付金」「一般寄付金」「学会寄付金」などがあります。

 もちろん、これらのお金が正しく使われているのならいいのですが、残念ながらそうとも言えない場合が多いため、問題になっているのです。

 たとえば、2008年3月30日付の読売新聞で、高血圧や糖尿病やメタボリック・シンドロームなどの診断基準を作成した医師たちが、製薬会社から多額の寄付金を受領していることが報じられ、話題になりました。

 その後も週刊誌や雑誌などがこの話題を取り上げたわけですが、特に強烈な印象を残したのは、メタボの指針作成の中心となった医者で、当時この人が所属していた大阪大学医学部第二内科には、奨学寄付金として製薬会社から6年間に総額8億3000万円を超えるお金が流れていたのです。

 この人物が「腹囲85センチ以上の男性はメタボ」などという、まったくあてにならない目安を決めた張本人ですが、おそらく自分自身はメタボが体に悪いと、本気で信じているわけではないと思います。なぜなら、本人がかなりメタボっぽい体型だからです。

 2014年の朝日新聞デジタル版(11月13日)の記事には、記者にウエストのサイズを聞かれて、「最高機密です」とのたまっているご本人の笑顔が載っていました。BMI(体格指数)で言えば、25ぐらいの太めの人のほうが長生きをすることを、おそらくこの人は知っていると思います。ちなみにBMIの標準値は22とされています。

 製薬会社から多額の寄付金をもらったら、メタボの指針も製薬会社に都合のいいものになってもおかしくはありません。当然、世間もそう見ると思います。そして、この診断基準によって、多くの健康な人までが飲まなくてもいい薬を飲むことになったのです。

 理想を言えば、製薬会社から大学病院への寄付を一切なくし、大学病院は国から十分な研究費をもらって、医局員は薬を適正に使用するという形がいいと思います。しかし、現実には、実験器具を買ったり、医局の秘書を雇ったりするにも、あるいはエアコン代でさえ、寄付金に頼らざるを得ない状況です。いくら製薬会社からの接待が禁止になったと言っても、製薬会社と医局や医者との癒着は、なかなかなくならないでしょう。






だから医者は薬を飲まない
和田秀樹 著



和田 秀樹(わだ・ひでき)
1960年大阪府生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在は精神科医。和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学大学院教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。著書に『だから、これまでの健康・医学常識を疑え! 』(ワック)、『医者よ、老人を殺すな!』(KKロングセラーズ)、『老人性うつ』(PHP研究所)、『医学部の大罪』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『東大の大罪』(朝日新聞出版)など多数。
  • はてなブックマークに追加